book

古典派ソナタは自ら弾く/聴くことによって主体の現前を迂回した volonté générale の夢を開く(チャールズ・ローゼン『ベートーヴェンを“読む” 32のピアノソナタ』)

[追記あり] プルーストの喜劇は、1850年からほぼ現在に至るまでの中上流階級の家庭における欧米の文化を代表するものとして、ベートーヴェンのソナタに相当の価値を与えている。客人をもてなしたり、家族で夕食を楽しんだりするのと同様、文化的な生活の一部…

ヴェルディ生誕200年の大新書(加藤浩子『オペラ改革者の素顔と作品』)

加藤浩子さんがイタリア・オペラについてお書きになることは、いつも判断の根拠がはっきりしているし、信用していいに違いない。ブログを拝見して、勝手にそう思っておりましたが、今度出た新書は情報がびっしり詰まって、なんだかすごい。 ヴェルディ: オペ…

オペラの周囲に繁茂する膨大な日本語文字情報を音楽ライターが圧縮する最新技術(『戦後のオペラ1945〜2013』、森岡実穂『オペラハウスから世界を見る』どちらもお値段1,000円以下!)

戦後のオペラ―1945~2013作者: 渡辺和,山田治生出版社/メーカー: 新国立劇場情報センター発売日: 2013/05メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る 大阪梅田の丸善ジュンク堂で発見、購入。この価格でこの内容に、ただただ感心するばかり。最初の渡…

「東大教授の解説」は案外正しい(西垣通『集合知とは何か』)

集合知とは何か - ネット時代の「知」のゆくえ (中公新書)作者: 西垣通出版社/メーカー: 中央公論新社発売日: 2013/02/22メディア: 新書 クリック: 18回この商品を含むブログ (23件) を見る このタイトルを思いついたので、メモしておきたかっただけのことで…

Pierre Souvtchinsky の名と20数年ぶりに再会するストラヴィンスキー『音楽の詩学』新訳

音楽の詩学 (転換期を読む)作者: イーゴリストラヴィンスキー,Igor Strawinsky,笠羽映子出版社/メーカー: 未来社発売日: 2012/08メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る 笠羽映子さんがフランス語1942年版から訳したストラヴィンスキー『音楽の…

一向一揆研究がここまで広がる(神田千里『宗教で読む戦国時代』)

私がこれまでやってきたことの大半は、「学問」ではなく、「評論」だということになる。そして、事実、その通りだと思う。 昨日に引き続き ( イラストレーション ) - Le plaisir de la musique 音楽の歓び - Yahoo!ブログ それはそうだと思いますが、そのう…

ルネサンスのユマニストは「暇人(schole)」だったのか?(ピーター・バーク『知識の社会史』)

[補足あり] 知識の社会史―知と情報はいかにして商品化したか作者: ピーターバーク,Peter Burke,井山弘幸,城戸淳出版社/メーカー: 新曜社発売日: 2004/08メディア: 単行本購入: 6人 クリック: 40回この商品を含むブログ (31件) を見る ピーター・バーク『知識…

和紙を毛筆で撫でるvs石に刃先で文字を刻む(松本彰『記念碑に刻まれたドイツ』)、そういえば音楽の「記念碑様式」の研究史はどうなっているのか?

[最後に音楽の「記念碑様式」のことを簡単に追記] 「書の国」の人々が「書」に与えている役割と、ユーラシア大陸の反対に住む人々が自国の音楽(をはじめとする文化)について「書く」行為に互換性があるのかどうか、同列に読めば読めてしまうのだけれども、…

ピーター・バーク『知識の社会史』

社会学者は、世の中のレギュラーとイレギュラーの間にとりあえずであれ線を引かなければ気が済まない性癖(そうしないと近代科学っぽい統計や理論ができない)から不寛容へ転じる危険をかかえていて、一方、文化史家は、友好的な宇宙人が地上に降り立って、世…

世界に誇りたいニッポンの「競技読書」と、ナショナル・アイデンティティ(国民の自意識)を取り扱う本はレンガのように分厚い、の法則: Jann Pasler, Composing the citizen: music as public utility in Third Republic France, 2009

西洋の音楽と社会(9) 世紀末とナショナリズム 後期ロマン派 II (西洋の音楽と社会―後期ロマン派2)作者: ジムサムソン,Jim Samson,三宅幸夫出版社/メーカー: 音楽之友社発売日: 1998/12/10メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る 吉田寛で「音楽…

「音楽の国ドイツ」は往年のドイツ帝国の自画像というより、ドイツのアメリカニズムとアメリカのジャーマニズムが手を取り合って20世紀末に生み出した直近の仮象ではないか?(吉田寛『〈音楽の国ドイツ〉の神話とその起源』)

*いきなり以下の文章を読む前に、まず著者吉田さんのブログの公式見解を読んでから、こちらで「肩慣らし」するのがいいかもしれません。→ http://d.hatena.ne.jp/tsiraisi/20130227[2/24 最初と最後に加筆あり。ちなみに、増田聡はこういう話を読むと、「曲…

自然科学というヤンキーな宗教の射程:一川誠『錯覚学』寸評

人間にとって平面との出会いは、立体との出会いよりもずっと遅れて発生したものだ。今、私たちは立体的環境に足を踏み出すことなく、紙にせよ、スクリーンにせよ、いかに平面上ですべてを理解し処理するかに多大のエネルギーを注いでいる。ときには、立体的…

文化史の秋:ピーター・バーク『文化史とは何か?』

文化史とは何か 増補改訂版作者: ピーター・バーク,Peter Burke,長谷川 貴彦出版社/メーカー: 法政大学出版局発売日: 2010/01/15メディア: 単行本 クリック: 35回この商品を含むブログ (7件) を見る 2週間前から、ずっと八尾の両親(正確には父が再入院した…

W. シヴェルブシュの照明の文化史二部作(『闇をひらく光 19世紀における照明の文化史』『光と影のドラマトゥルギー 20世紀における電気照明の登場』)

1991/92年にドイツへ行かせてもらったときに、『地球の歩き方』世代ですからカルチャーショックとか、そういうことはなく、基本的には、ちょっと遠い街の一人暮らしで実際的にあれこれやらなければならないことをこなすうちに一年が過ぎた感じでしたが、それ…

ソロ・コンチェルトとコンサート・アリア(小岩信治『ピアノ協奏曲の誕生 19世紀ヴィルトゥオーソ音楽史』)

[付記:本書にツェルニーは登場しません。こういう文脈に登場しない人なんだ、という事実を噛みしめながら研究を続けていただくのがいいのではないか、と誰に言うともなく書き足しておく12月29日。]「C・M・v・ウェ−バ−の器楽理論、およびその実践として…

「あなたは考えている。でもあなたの言っていることでは足りないんだ。」(吉田秀和)

[追記:選挙答え合わせ、あり] 私は政治思想史の研究者という看板を出しているけれど、その一方でクラシック音楽の評論家もやっている。そちらの畑の人は私のこの種の書き物にはあんまり気付いてくれないものだ。が、吉田秀和さんは例外で、こちらからお送り…

茂山千之丞作・大栗裕作曲 オペレッタ狂言「悪太郎」(一幕三場)刊行

大栗裕の知られざる音楽劇(京都女子大学の委嘱作で1962〜64年に地方公演された出演者3人+ピアノ・打楽器+女声合唱の室内オペラ、名前だけが伝わり、これまでどういう作品なのか不明でした)の台本・楽譜が刊行されます。学会シンポジウムでの報告(大栗…

宗教学者の大阪神話、中沢新一『大阪アースダイバー』

出ましたね。週末に梅田の紀伊國屋書店へ行ったら入口に大量に平積みになっていました。 大阪アースダイバー作者: 中沢新一出版社/メーカー: 講談社発売日: 2012/10/11メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 2人 クリック: 14回この商品を含むブログ (46件)…

ラーメンと華人と愛国(神戸華僑華人研究会編『神戸と華僑 この150年の歩み』)

神戸と華僑―この150年の歩み (のじぎく文庫)作者: 神戸華僑華人研究会出版社/メーカー: 神戸新聞総合出版センター発売日: 2004/03メディア: 単行本 クリック: 1回この商品を含むブログを見る 念のため申しますが、私は国境問題へ首をつっこむ意志はまったく…

ベルリンのシューベルト、ウィーンのリヒャルト・シュトラウス(岡田暁生『楽都ウィーンの光と陰』)

『美学』最新号に阪大の山口真季子さんがクルシェネクによるシューベルトのピアノソナタの補作を扱った論文が出ています。シューベルトはヨハン・シュトラウスと並ぶ生粋のウィーンの音楽家ですが、クルシェネクやシュナーベル(ピアニストであると同時に作…

門外漢な読書三題、文楽のこと・大正大震災のこと・ジャポニズムのこと

歌舞伎の歴史は、素人が楽しみながら読めるものが色々ありますが、 絵で読む歌舞伎の歴史作者: 服部幸雄出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2008/10メディア: 単行本 クリック: 1回この商品を含むブログ (4件) を見る こういうものに相当する文楽の本はあるので…

田中久美子『記号と再帰』

記号と再帰: 記号論の形式・プログラムの必然作者: 田中久美子出版社/メーカー: 東京大学出版会発売日: 2010/06/23メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 201回この商品を含むブログ (27件) を見る 先に読んだ木村大治『括弧の意味論』のなかで、 http://d.ha…

木村大治『括弧の意味論』

http://booklog.kinokuniya.co.jp/abe/archives/2012/07/post_113.html紀伊國屋書店の書評サイトで阿部公彦さんが絶賛していて、これは間違いないだろうと思って購入。 括弧の意味論作者: 木村大治出版社/メーカー: エヌティティ出版発売日: 2011/02/10メデ…

テクノロジーと関係妄想(片山杜秀『未完のファシズム』)

[以下に言及する本の著者が近代政治思想史業界(というのがあるんすかね)のフルメンバーとして認知されているかどうか、というニッチな問題を私は感知せず、そのようにお江戸(人はそれを「中央」と呼ぶ)の行政に無知であるわたくしは、ちょうど、庶民伝説…

安田寛『バイエルの謎』

バイエルの謎: 日本文化になったピアノ教則本作者: 安田寛出版社/メーカー: 音楽之友社発売日: 2012/05/16メディア: 単行本 クリック: 3回この商品を含むブログを見る この本、前半は遅々として状況が開けなくて、読んでいると、(とりわけこの種の本を職業…

「現象を救う」中世人と「現象を作る」近代人(承前:村田純一『技術の哲学』)

村田純一『技術の哲学』を「科学と技術」のところまで読みました。ますます面白くなってきました。 技術の哲学 (岩波テキストブックス)作者: 村田純一出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2009/07/17メディア: 単行本 クリック: 15回この商品を含むブログ (15…

グリーグさんの本が出た(アーリング・ダール『グリーグその生涯と音楽』)

グリーグ その生涯と音楽作者: アーリングダール,小林ひかり出版社/メーカー: 音楽之友社発売日: 2012/04/19メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る 阪大の伊東信宏先生のところで小林ひかりさんがグリーグを研究しているのは、バルトークが最晩…

音楽と実践哲学(村田純一『技術の哲学』)

技術の哲学 (岩波テキストブックス)作者: 村田純一出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2009/07/17メディア: 単行本 クリック: 15回この商品を含むブログ (15件) を見る 「中世スコラ哲学がアリストテレスを取り入れたときに、音楽理論(musica theoretica)と…

大阪の核心部といえば、やはり上町台地と船場でしょう(中沢新一(談)「アースダイバー的「大阪の原理」」、『現代思想』2012年5月号)

「大阪論」というと、『現代思想』のような傾向雑誌ですと(笑)、ともすれば注目は西成に集まりがちですが、大阪の核心部といえば、やはり上町台地と船場でしょう。(中沢新一(談)「アースダイバー的「大阪の原理」」、『現代思想』2012年5月号、160頁) …

神田千里『宗教で読む戦国時代』と等身大の本願寺

宗教で読む戦国時代 (講談社選書メチエ)作者: 神田千里出版社/メーカー: 講談社発売日: 2010/02/11メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 1人 クリック: 27回この商品を含むブログ (20件) を見る 與那覇潤さんのことは、ひとしきり集中して考えたので、もう…