「運命の1853年」ムジカ・キアリーナ

ザ・フェニックスホールのエヴオリューションシリーズ第35回。ロベルト・シューマン、クララ・ヴィーク(シューマン)、ヨハネス・ブラームスの交流を、ブラームスがシューマン夫妻と出会った1853年を中心に、朗読(今村由紀)と、室内楽(ヴァイオリン:木下真希、ピアノ:土居知子、チェロ:エフゲニー・オーソーキン)で綴る試み。

朗読の内容は、歴史的な事実を踏まえつつ、客観的な解説というより、手紙などから、それぞれの一人称で内面を語らせる形で、独白的な言葉と、インティメートな音楽のバランスが良かったように思います。演奏は、クララ・シューマンの素直な旋律(ヴァイオリンとピアノのロマンス)や、ブラームスの、ヴィルトゥオーソ的効果に結びつかない凝ったピアノ書法(ピアノ三重奏曲第1番)を、やや扱いあぐねているようにも見えました。ドイツ・ロマン派の渋い音楽は、今の人には、スペイン近代や、グリーグ、シベリウスの北欧ものと同じくらいローカルで、すぐにはなじめない様式に、なりつつあるのかも……。