デームス・オン・フォルテピアノ

ザ・フェニックスホール。シュトライヒャーを使った後半のシューマン(「花の曲」、「アラベスク」、「フモレスケ」、「ウィーンの謝肉祭の道化」抜粋)は、SPレコードの時代に舞い戻ったように、無骨に揺れる演奏。指のもつれや、散漫なテンポなど、お年寄り特有の「症状」があらわでしたが、そうした「衰え」には無頓着。それでも音楽は成立するはずだ、という居直りでしょうか。

前半のバッハは企画倒れ。クリストフォリのフォルテピアノ(山本宣夫による復元)を使っていましたが、打鍵が無造作でチェンバロ風の乾いた響き。デームスには、最近の演奏家のように、フォルテピアノから特有の繊細さを引きだそうという気持ちはないようでした。

この2年間のレクチャー・コンサートを通して、ホールの企画性の象徴になったヤマモト・コレクションのフォルテピアノを、イェルク・デームスという名前(「ウィーンの伝統」)と結びつける、いわば、権威付けの儀式。客席中央には、ホール親会社の社長が臨席しておられましたし、象徴的な意味づけが前面に出た、ホール10周年の「音楽式典」ですね。

(付記:数日後、「朝日新聞」には、おなじみ岡田暁生氏が絶賛評を書いておられました。こういう振る舞いは、本当に勉強になります(笑)。)