サントリー音楽財団コンサートTRANSMUSIC 2005 対話する作曲家 伊左冶直 イラストレーター名倉靖博氏を迎えて

いずみホール。昨年の権代敦彦氏に続いて、今回も、ビジュアルアート系のゲストと組み、コンサートホールを目で楽しめる空間に作り替えた上で(舞台背後のスクリーンに名倉氏のイラストを投影)、自作および世界の様々な音楽を、切れ目なく、一続きのステージとして提示するスタイル。前回に続いて、今年も、作曲者にとって大阪での本格的な個展は初めてとのことで、これまた前回同様、参加したのは、ほぼすべて、関東の演奏家の方々でした。

前回の権代氏は、いわば大陸観念論、カトリックvs仏教vs近代日本という観念/世界観の相克を音で指し示すというものでしたが、今回の伊左冶さんは、英米的な経験論。文化的・歴史的な文脈をひとまず括弧に入れて、ボサノバやホーメイ、ピアノ/チェンバロとヴァイオリンなど、世界の様々な(概して攻撃的ではない「癒し系」の?)音の組み合わせて、虚構の楽園を作った印象でした。

ホーメイや口笛が、ヴァイオリンや打楽器群の喧噪をすりぬけて耳に届く、そういう、常識では思いつきそうにない精妙な音の組み合わせが面白かったです。世界の食材を自由に組み合わせた創作料理のような感じ。

さまざまな種類の振動・周波数をどう組み合わせるか、ということでもあり、客席を含む広い空間に音源をどう配置するか、ということでもあると思います。音の横断・越境が、様々な条件下でのライブやレコーディングの経験に裏打ちされているのだろうし、そうした経験を生産的にクラシック用のホールにフィードバックした公演なのかなと思いました。

観念論が文明の衝突的に壮大になり、一方で、経験論的実践には、ミリ単位の耳の鋭さが求められる。二十一世紀初頭の世界都市・東京から音楽を発信するのは、大変なことなのですねえ。