岩崎宇紀ピアノリサイタル 遮られない夢

ザ・フェニックスホール。ロシアの、ソ連によって消された過去というと、まず最初に思い浮かぶのは(そして最近、ピアニストの方々の間でも人気があるのは)、アメリカへ渡ったラフマニノフやホロヴィッツ、あるいは、パリへ逃れた亡命者たちが温存していた「帝都末期の記憶」(いわゆる「白銀の時代」)のことだと思いますが、このリサイタルで特集されたのは、そうした「古き良き時代」と、プロコフィエフ、ショスタコーヴィチ、ハチャトゥリアンなどの「スターリン世代」(いわば1930年代組)の間をつなぐ、ソヴィエト成立前後のアヴァンギャルド。

彼らをドビュッシー、シェーンベルク、スクリャービンの交点に位置づける、というのは、あまりにも「前衛史観」(岩崎さんは秋山邦晴を通してロシア・アヴァンギャルドと出会ったそうです)に傾き過ぎかもしれません。が、ほれぼれするくらい抽象度が高く、「形式主義」を顕揚するプログラム。京都芸大での故園田高弘の薫陶を感じさせる、端正な演奏でした。

前半:ドビュッシー「12の練習曲」抜粋(「半音階のために」、「装飾音のために」、「反復音のために」、1915)、シェーンベルク「組曲」op.25(1921-23)、スクリャービン「ピアノソナタ第9番」(1912-13)。

後半:アレキサンドロフ「2つの小品」(1928)、ロスラヴェツ「2つのコンポジション」(1915)、ルリエ「総合」(1914)、「空中の諸形式」(1915)、シリンガー「エキサントリアード」(1928)。