大植英次バイロイト音楽祭記者会見(2)

大植英次さんのバイロイト音楽祭出演が今年かぎりになった話で、以前、レポートを書いたシンポジウムのことを思い出しました。

シンポジウム・レポート「現代におけるヴァーグナー上演の意義と問題」
http://www3.osk.3web.ne.jp/~tsiraisi/musicology/article/msj-kansai-wagner.html

この2003年のシンポジウムでは、岡本稔さんがドイツのワーグナー演出の最新事情を豊富な実例で紹介してくださいました。

岡本さんによると、中小劇場のいわゆる「読み替え」演出では、しばしば、バイロイトの保守的な姿勢が揶揄や批判の対象になっているようでした。

そして、このレポートにも書いたように、

「ドイツ、オーストリア全体で考えると、「大衆迎合」(中村氏)と受け取られるかもしれない新演出と、伝統的な演出(ヘッセン州立劇場、2002-2004年の「指輪」など)、「観光資源」(ウィーン国立歌劇場総監督、イオアン・ホレンダーの発言)としての大劇場が共存し、多様性が保たれている

という状況らしい。

大植英次さんのバイロイト出演は、ハノーファーの有力楽員の推薦を得て、総監督ウォルフガング・ワーグナーのバックアップで実現したと聞いています。

一方、マルタラーの「トリスタン」演出は、かなり独特なものだったと伝えられていますが、どういうものだったのでしょうね。

バイロイト自身にも、ヴィーラント・ワーグナー以来の様々な演出例がありますから、台本にないことをやれば、すなわち「読み替え」=アンチ大劇場主義だ、ということではないと思います。

けれども、なんとなく、総監督だけの意向ですべてが決まるわけではない状況になりつつあるような印象も受けます。

大植さんは、もしかすると、それと意識することなく、込み入った論争の渦の真ん中に飛び込む形になってしまったのかもしれませんね。