第26回(2005年度)音楽クリティック・クラブ賞

昨年12月に行われました音楽クリティック・クラブの選考会の結果、第26回(2005年度)音楽クリティック・クラブ賞及び音楽クリティック・クラブ奨励賞の受賞者が下記の通り決定しました。今回は2004年12月から2005年11月にかけて関西で開かれた演奏会の中から特に顕著な業績を収めた方に賞を贈呈することになりました。

第26回(2005年度)音楽クリティック・クラブ賞
及び音楽クリティック・クラブ奨励賞受賞者

【音楽クリティック・クラブ賞】
 いずみホール
【音楽クリティック・クラブ奨励賞】(順不同) 
 石橋栄実(いしばし えみ)
 老田裕子(おいた ゆうこ)
 日下紗矢子(くさか さやこ)

<贈賞理由>
【音楽クリティック・クラブ賞】
いずみホール 殿
いずみホールオペラ、釜洞祐子プロデュース・オペラ・シリーズ第2回公演、プーランクの《カルメル会修道女の対話》(2005年5月14日、いずみホール)は、フランス革命時代の恐怖政治のもとで修道女たちが置かれた悲劇的な状況を描いた深刻な内容の作品であるが、このたびの上演は劇的にも音楽的にもこの作品がもたらす高度な要求に応え、すぐれた舞台空間を創り上げることに成功した。日本語による演奏会形式であったが、岩田達宗の演出により、舞台後方上部の空間でオペラが演じられ、床面から凸字の形に突き出た部分をさまざまに象徴化して用いるなど、簡素ながら効果的な個々の場面設定も評価される。キャストは、釜洞自身によるブランシュや石橋栄実のコンスタンス、マザー・マリーの尾崎比佐子をはじめ、深い表出と優れた歌唱により聴衆を魅了し、また、前修道院長の児玉祐子、新院長の橋爪万里子、侯爵の花月真、騎士の松本薫平、指導司祭の田中勉、状況としての群衆の声を歌ったザ・カレッジ・オペラハウス合唱団、そして、プーランクのスコアを明晰に再現した山下一史指揮・ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団も好演、今回のいずみホールオペラ《カルメル会修道女の対話》の関西初演は、今日の日本におけるオペラ上演に多大の貢献を行ったといえよう。(根岸一美)

【音楽クリティック・クラブ奨励賞】
石橋 栄実 殿
2005年5月14日、いずみホール・オペラ:プーランク「カルメル会修道女の対話」、10月24日、26日、ザ・カレッジ・オペラハウス、松村禎三「沈黙」における歌唱の成果
これまで関西の、とりわけザ・カレッジ・オペラハウスにおける様々な公演を中心に優れ歌唱力を示してきた石橋栄実だが、2005年においては、関西において行われてオペラ公演のうち特に高く評価された二つの公演(5月14日、いずみホール・オペラ:プーランク「カルメル会の修道女の対話」、10月24、26日、ザ、カレッジ・オペラハウス、松村禎三「沈黙」)できわめて優れた歌唱を展開し、著しい進境を示した。前者ではコンスタンスという明るく可憐な修道女の姿を、透明でピュアな歌声と伸びやかで生き生きとした表現で見事に歌い上げ、また後者では、難しい現代作品を完全に掌中のものとし、オハルという松村禎三が敢えて遠藤周作の原作に付け加えた女性の持つ、純な心情や一途な情熱をこの上なく見事に表現した。とりわけ、オハルの狂乱の場における劇的な熱唱は、観客に深い感銘を与えた。今後の更なる飛躍と芸域の拡大を期待して、音楽クリティック・クラブ奨励賞を贈呈する。(中村孝義)

老田 裕子 殿
2005年7月21日に松方ホールで開かれたリサイタルで、前半にシューベルト、ブラームス、R・シュトラウスの歌曲を並べ、後半にコロラトゥーラの技巧を要するアダンの変奏曲、日本歌曲、そしてベルリーニのオペラ・アリアを藤江圭子のピアノを伴って歌ったが、以前から注目されていた無理のない美声と堅実なテクニックが一段と安定感を増し、すべての歌曲にわたって充実した歌唱を聴かせた。特筆したいにはドイツ語、フランス語、日本語、イタリア語それぞれの歌詞が明瞭に発音されていたこと、そして最高音に至るまで実に良くコントロールされていたことである。それらが一体となって、技巧のみに偏らず、あるいは感情表現に入り込み過ぎない、きわめてバランスの良い表現が達成され、聴く者に大きな満足感を与えたと同時に、今後の活躍を期待させるに十分であった。(福本 健)

日下 紗矢子 殿
日下紗矢子ヴァイオリンリサイタル 2004年12月24日、京都府立府民ホール・アルティ
東京芸術大学在学中からコンクール等で実績を積み重ねる一方、演奏活動にはどこか慎重な印象のあった日下紗矢子が、今回のリサイタルでは、多彩な曲目で大きな一歩を踏み出した。日下のヴァイオリン演奏の最大の特徴は、音楽への驚異的な集中力である。それは、音色を研ぎ澄ます耳、二十世紀の難曲(ストラヴィンスキー、武満徹、プロコフィエフ)を弾きこなす技術の精度、そしてバッハ「無伴奏パルティータ第二番」の各楽章を「ひとつの大きな旋律」にまとめる構想力として、遺憾なく発揮された。今後さらに幅広い表現を身につけることを期待しつつ、自らの素質を花開かせた研鑽の成果を称えたい。(白石知雄)

<受賞者プロフィール>

■いずみホール
いずみホールは、住友生命保険相互会社の60周年事業の一環として、クラシック専用ホールとして1990年4月に開館し、2005年4月に開館15周年を迎えた。形状はシューボックス型で座席数821席。年間平均230公演の稼動を誇っている。
独自の切り口のシリーズを組んだ主催公演においては、開館以来、礒山雅(国立音楽大学教授)を音楽ディレクターに迎え、高水準のオリジナル企画を続けて定評を獲得している。毎年テーマを設けた年間企画を柱に、「音楽の未来への旅シリーズ」や「音楽の原点への旅シリーズ」「いずみホールオペラ」「日本の響き」などのオリジナルシリーズを展開している。また、レジデント・グループのいずみシンフォニエッタ大阪を運営するなど意欲的な姿勢を保つ。
貸しホール面においても「日本国際室内楽コンクール」の会場として提供するなど、ホール特性を生かした運営を行っている。
このような活動が評価され、住友生命保険相互会社は、いずみホールへの協力を理由として、(社)企業メセナ協議会主催の「メセナ大賞1999」の「メセナ地域賞」を受賞した。
2004年12月9日には、開館以来の入場者数の累計が200万人を突破。開館以来、14年間にわたり稼働率70%、1公演あたりの入場者を平均で530人以上の来場者を迎えている。
また、オープン以来、株式会社組織による管理・運営を行ってきたが、2001年11月より、財団法人住友生命社会福祉事業団に編入し、より一層幅広い社会貢献活動への展開を図っている。(いずみホール提出)

■石橋栄実
ソプラノ
大阪音楽大学音楽学部声楽学科卒業。同大学専攻科声楽専攻修了。
平成12年度大阪府舞台芸術奨励新人。
98年「ヘンゼルとグレーテル」のグレーテル役でオペラデビュー。その好演により、ドイツ・ケムニッツ市立歌劇場公演「ヘンゼルとグレーテル」にグレーテル役として招聘され出演、同時に独デビューを果たす。その後も、「後宮からの逃走」ブロンデ、「フィガロの結婚」スザンナ、「ドン・ジョヴァンニ」ドンナ・アンナ、ゼルリーナ、「コジ・ファン・トゥッテ」デスピーナ、「魔笛」パミーナ、パパゲーナ、クナーベ?、「フィデリオ」マルツェリーネ、「こうもり」アデーレ、「スザンナの秘密」スザンナ、「夜間飛行」遠くからの声、「アルバート・へリング」エミー、「電話」ルーシー、「ヒロシマのオルフェ」若い娘のちに看護婦、など、多数のオペラに出演。今年度は、いずみホールオペラ「カルメル会修道女の対話」コンスタンス役、新国立劇場地域招聘公演及びザ・カレッジ・オペラハウス再演「沈黙」オハル役、兵庫県立芸術文化センター公演「ヘンゼルとグレーテル」グレーテル役などを演唱。
また、バッハ「コーヒーカンタータ」、モーツァルト「戴冠ミサ」、ベートーヴェン「第九」、ブラームス「ドイツレクイエム」、フォーレ「レクイエム」などのソリストを務めるほか、チャリティーコンサートへの参加やディナーショー出演など、幅広く活動している。
02年、初のソロコンサートを開催、好評を得る。04年秋「NHK名曲リサイタル」に出演。
堺シティオペラ、クオレの会、各会員。大阪音楽大学、大阪府立夕陽丘高等学校音楽科非常勤講師。(2005年12月現在)

■老田裕子
ソプラノ
神戸市出身。99年大阪音楽大学大学院歌曲研究室修了。在学中から演奏活動をはじめ、大学卒業後、同大学第2回新人演奏会、関西新人演奏会、第12回ABC新人コンサートなど各種演奏会に出演する。オペラでは「ドン・ジョヴァンニ」ドンナ・アンナ役、「魔笛」パミーナ役を演じ、好評を得た。宗教曲では、ハイドン「天地創造」、プーランク「グローリア」、ベルリオーズ「荘厳ミサ」、モーツアルト「戴冠式ミサ」、ブラームス「ドイツレクイエム」、ドヴォルザーク「スタバトマーテル」、シューマン「レクイエム」「ミニヨンのためのレクイエム」、ベートーベン「第九」など多くのソリストを務める。
第51回全日本学生音楽コンクール全国大会大学・一般の部第1位、第16回摂津音楽祭銀賞、JSG日本シューベルト歌曲コンクール入選、世界オペラ歌唱コンクール「新しい声」アジア予選入選、第73回日本音楽コンクール歌曲部門入選、第24回飯塚新人音楽コンクール第1位、第9回松方音楽賞声楽(歌曲部門)大賞。
2003年から1年間ドイツ・ミュンヘンに留学し、H.ドイチュ氏、F.シュビンハンマー氏のもとでドイツ歌曲、F.ラング氏のもとで発声、オペラ歌唱を研鑽する。これまでに川下登、溝口眞知子、岡原慎也、木原光男、H.ドイチュ、F.シュビンハンマー、F.ラング、D.ヘンシェルの各氏に師事。
現在、関西二期会準会員、神戸音楽家協会、神戸波の会会員、神戸市混声合唱団団員、大阪音楽大学登録演奏員。

■日下紗矢子
ヴァイオリン
兵庫県出身。東京芸術大学附属高等学校を経て、2001年同大学を首席で卒業。芸大内で福島賞、安宅賞、アカンサス音楽賞、NTTドコモ賞受賞。2001年より安田生命文化財団の助成を受け、また2003年からはロームミュージックファンデーションの奨学金を得てアメリカ・ダラスの南メソディスト大学マスターコースに留学中。
田淵洋子、浦川宣也、清水高師、エドアルド・シュミーダーの各氏に師事。
1995年 第5回イフラ・ニーマン国際ヴァイオリン・コンクール第1位。同年第3回パブロ・デ・サラサーテ国際ヴァイオリン・コンクール第4位。1997年エリザベート王妃国際ヴァイオリン・コンクールにてマルコム・フレーガー賞受賞。同年第7回ABC新人オーディション合格、フレッシュコンサートに出演。
1998年ミケランジェロ・アバド国際ヴァイオリン・コンクール第2位(1位なし)。
2000年秋には、第47回パガニーニ国際ヴァイオリン・コンクール第2位、併せてカプリス最優秀演奏賞受賞。第69回日本音楽コンクール第1位、併せて増沢賞、レウカディア賞、鷲見賞、黒柳賞受賞。第8回シベリウス国際ヴァイオリン・コンクール第3位入賞、と立て続けに入賞し一躍音楽界の注目を浴びる。
2002年第21回ロドルフォ・リピツァー国際ヴァイオリン・コンクール第1位、併せてバッハ賞、モーツァルト賞、現代曲賞など7つの副賞を受賞。
新日本フィルハーモニー交響楽団、東京交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、大阪センチュリー交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、京都市交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団、レニングラード国立歌劇場管弦楽団、メドウズ・シンフォニー・オーケストラ、バカウ・フィルハーモニック・オーケストラなどと共演。またロサンゼルス、サンディエゴ、ダラス、ニューメキシコ、エクアドル、サンクトペテルブルグ、ロンドン、イタリア各地、東京、大阪、京都ほかにてリサイタルを行うほか、国内外の音楽祭にも参加、NHK‐FMリサイタル出演など活躍の場を広げている。
2004年にはエドアルド・シュミーダー氏率いる“イ・パルピティ合奏団“のソリストとして別府アルゲリッチ音楽祭「室内楽マラソンコンサート」に出演。2006年2月には同合奏団とのイスラエル公演が予定されている。
1995年京都芸術祭奨励賞、1998年青山音楽賞、1999年大阪芸術祭奨励賞を受賞。
現在最も活躍が期待される若手ヴァイオリニストの一人である。(2005年12月現在)