日本経済新聞夕刊「オーケストラ実力診断」

オーケストラ実力診断(上)
http://www.nikkei.co.jp/kansai/culture/34212.html
オーケストラ実力診断(下)
http://www.nikkei.co.jp/kansai/culture/34338.html
先週の「上」に続いて、今日の夕刊(大阪版のみでしょうか)に「下」が掲載されました。

全体を通して、大阪シンフォニカーの評価が低いのが、私の印象と大きく隔たっていて違和感を覚えました。

シンフォニカーは、現在の指揮者体制(ミュージック・アドヴァイザー首席指揮者:大山平一郎、正指揮者:寺岡清高、首席客演指揮者:ウラディーミル・ヴァーレク)になってから、見違えるくらい志気が高く、良い演奏が続いていると思います。

なので、演奏能力を論じた「上」で、シンフォニカーと関西フィルにほとんど差がなくて、指揮者への評価で関西フィルのほうが上というのは、どういうことなのだろうと思いました。

(シンフォニカー定期の会場で、横原千史さんに会ったので、「飯守泰次郎を誉めてはダメでしょう」と強く抗議しておきました(笑)。彼は前から「飯守はいい」と言い続けている人なので、私が騒いだくらいで意見を変えることはないと思いますけれど……。)

企画力やファンサービスを扱った「下」では、関西フィルが圧倒的に高い評価を得ています。それ自体はいいのですが、これだと、まるで、押し出しが良く、サービス満点=商売上手だと、それに引きずられて、演奏まで良く聞こえているみたいじゃないか。批評家も人の子、雰囲気に流されるところがある俗物。所詮、その程度のものだ、というのが露骨に見える数字になってしまっている気がして、ちょっと残念です。

(ミーハーで俗物だからこそ、恥も外聞もなく物が言える、というところ、そういう意見を言う人がいたほうがいい、という一面もあると思うので、批評家に聖人君子・比類なきプロフェッショナリズム(だけ)を期待されても困りますが……。)

関西フィルにスコダがピアノ&指揮で出演したモーツァルト・プロ(5月)は非常に面白い演奏会でした。でも、あれは、博打がたまたま大当たりした偶然の万馬券みたいなものだったんじゃないかと、失礼ながら私は思っています。関西フィルの運営は、全体として、ちょっと「一発狙い」が過ぎるような印象があります。もちろん、そういう路線に賭ける営業判断なのだから、外から水を差すこともないのかもしれませんけれど……。

(以前、関西フィルにはかなり根を詰めて通った時期があります。でも、だんだん飯守泰次郎さんがワンパターンなのがわかってきて……。好きな人には、あのパターンがツボにハマる、ということなのでしょうか。また、もしかすると藤岡幸夫さんはいつか大化けするかも、という淡い期待もあったのですが、現状の関西フィルは、出来ることの限界があって、残念ながら、指揮者を啓発して育てる感じにはなっていないような気がしています。)

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演奏能力の点で、京響は大フィルに並ぶような評価になっていて、そこに私のコメントも載っています。今の京響が、京都会館で山田和雄や小林研一郎とやっていた頃とは全然別のオーケストラなのだということが、京都以外のメディアで、きちんと報じられたのは、快挙かも、と思います。

たまたま何回か良い演奏をした、というだけでは、なかなか、オーケストラのイメージは変わりません。批評家のほうも、定期演奏会に限定したとしても、全部まんべんなく聴くというのは時間的・労力的に不可能。(演奏会は、オーケストラだけではありませんし……。)オーケストラの評価が変わるには、時間がかかるものなのかもしれません。

大フィルや京響を聴くと、安定したオーケストラを作るには、本当に手間と時間がかかるんだな、と思います。そして、最近のセンチュリーを聴くと、結束が堅かった精鋭集団でも、あっという間に崩れてガタガタになってしまうのだなあ。脆いものだな、とも思います。

シンフォニカーは、派手さはないけれど、古典派からロマン派にレパートリーを絞って着実に良い、といつも思います。「たまたま」とは思えない安定した演奏が続いていて、いつも、聴きに行くのが楽しみ。でも、そのことが認知されるようになるのは、とても残念ですが、まだもう少し時間がかかるのかもしれません。ブレることなく、この調子で続けて欲しいです。(もうちょっと宣伝やイメージアップの手を打ったほうが活動がやりやすくなるのでは、という思いはありますが……。)

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ところで、過半数の団体(=在阪4オケ)が定期演奏会をシンフォニーホールでやっていて、このホールでの出来がオーケストラのベンチマークのようになっている気がします。

一方、京響は、ほとんどの公演が京都コンサートホールです。リハーサルもここでやっています。なかなか、他のホールで聴く機会がありません。ホールの特性も、大阪のシンフォニーホールなどとは随分違います。

めったに京都へ行かない人は、ホールの違い・お客さんの雰囲気の違いへの戸惑いが先に立ってしまう可能性があるかも。また、京響のほうも、ややこのホールに特化しすぎていて、良く言えば、ホールを生かす方法を知っている、悪く言えば、欠点を上手に隠す方法を覚えてしまっているように思います(苦笑)。京都の「顔」として、京都以外でも積極的に公演して欲しいですし、今回の好評価が、その追い風になれば良いのですが。

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私が日経に送ったアンケート回答は、こんな感じです。数字をそのまま出すのも生々しいので、順位だけ。

(「>」は一点差、「>>」は二点差の意味。なので、ほとんど点数バレバレですが。)

●弦楽器のアンサンブル:
大フィル>京響>シンフォニカー&センチュリー>関西フィル>兵庫県立

●管楽器のアンサンブル:
京響>大フィル&センチュリー>>関西フィル&シンフォニカー>兵庫県立

[補足]
大フィルと京響は、いつ聴いても一定レベル以上で安定しているという印象があります。
センチュリーの個々の奏者の力は大フィル、京響に匹敵するはずと思うのですが、まとまりのない演奏をすることが多くなっているように思います。シンフォニカーは、どんどん良くなっている。もっと思い切ってシンフォニカーに高い点をつけるべきだったかもしれません。
(アンケートの回答には、「大阪シンフォニカーは、ヴィオラ奏者出身の大山平一郎が指揮した時の弦楽器の透明度は絶品。」というコメントを書き添えました。採用してもらえなかったようです。)

●指揮者の音楽性:
シンフォニカー>大フィル>京響>関西フィル>センチュリー&兵庫県立

●指揮者のテクニック:
大フィル>シンフォニカー>京響>関西フィル&兵庫県立>センチュリー

[補足]
*大フィルの大植英次さんは、難曲をまとめる技術力があるけれど、古典やロマン派の演奏では、シンフォニカーの大山平一郎(と首席客演のヴァーレク)のほうが上。

●コンサート企画力:
京響&関西フィル&センチュリー>大フィル&シンフォニカー&兵庫県立

[補足]
一応、点数をつけましたが、全体に変わり映えしない印象。

●ファンサービス:
関西フィル>>大フィル&京響&シンフォニカー&兵庫県立>センチュリー

[補足]
関西フィルの人目を引く=アピール度の高いプログラム作りは、企画というよりも、お客さんを喜ばせるサービス精神の現れと考えました。

●教育・普及活動:
関西フィル>京響&センチュリー>兵庫県立>大フィル&シンフォニカー

●運営の健全性:
大フィル>京響&関西フィル&シンフォニカー&兵庫県立>センチュリー