第37回サントリー音楽賞受賞記念コンサート鈴木秀美

東京まで聴きに行きました(サントリーホール)。

バッハの無伴奏チェロ・ソナタ第1番は、一口に舞曲といっても、これだけ多彩な表現法・レトリックがあるのかと驚かされましたし(クーラントはアウフタクトに推進力があって、第1拍は力が解放されてふっと浮き上がるような弾き方、サラバンドは響きを膨らませることで大事な拍を強調する弾き方)、後半のオーケストラ・リベラ・クラシカのハイドン交響曲第60番「うかつ者」も楽しい演奏でした。

けれども、無伴奏とリベラ・クラシカは、この先、関西公演が予定されているので、その時の楽しみに取っておくことにして、

  • 3月9日(金)、10日(土)、第37回サントリー音楽賞受賞記念 鈴木秀美J. S. バッハ無伴奏チェロ組曲演奏会、いずみホール
  • 7月6日(金)、ベートーヴェン交響曲全曲演奏会 第1回オーケストラ・リベラ・クラシカ(鈴木秀美指揮、交響曲第1番、第3番)、いずみホール

ここでは、平井千絵さんのフォルテピアノとのデュオについて(シューベルト「アルペジォーネ・ソナタ」、鈴木さんは5弦のチェロ・ピッコロを使用)。

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去年、「音楽現代」のCD評でメンデルスゾーンの室内楽集を聴かせていただいてから、お二人のデュオを、是非、実際に聴いてみたいと思っていたのです。

メンデルスゾーン:チェロとピアノのための作品全集

メンデルスゾーン:チェロとピアノのための作品全集

メンデルスゾーンの録音は、フォルテピアノの特性がはっきりわかるように音をしっかり拾っている感じですが、実際にステージで聴くと、楽器を完璧すぎるくらいコントロールした演奏。今回は、シューベルト(アルペジョーネ・ソナタ)ですし、CDのメンデルスゾーンとは楽器も違いますが、これが平井さんのスタイルなのかなと思いました。

やっぱりフォルテピアノはいいですね。

鈴木さんが使った5弦のチェロ・ピッコロよりもさらに華奢な楽器という印象で、弦楽器と同じ呼吸で動くことができて、でも、必要な時にはチェロの頭越しに高音のメロディがすっと抜けて出てきたり、チェロが高い音域で歌っている時に下に潜って支えたり。

チェロのハープ風ピチカートに乗せてフォルテピアノが歌う場面は本当にメルヘンっぽくなりますし、緩徐楽章のウナ・コルダや、終楽章のファゴット・ペダルも効果的。

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古典派以後のピリオド楽器・ピリオド奏法というと、「ベートーヴェンの交響曲がこんなに変わる」というようにオーケストラでの試みが目立ちますが、実は初期ロマン派(ベートーヴェンの死からブラームスが交響曲を書くまでの数十年)は、交響曲が低調だった時期、ということになると思います。

そのかわりに、と言うべきか、ピアノが大流行して、ピアニスト出身の作曲家が多かったせいもあって、ピアノを用いた室内楽がたくさん書かれていて。

フォルテピアノの音はガット弦と本当によく合いますし、ロマン派の室内楽は、フォルテピアノを使うことで印象が一変するはず。

この頃は、まだピアノ単独のリサイタルが例外的だったわけですし、ロマン派のピリオド演奏の本命は、オーケストラより室内楽ではないか、という気がします。色々な演奏が出てきて欲しいです。