関西の「顔が見える」小ホール (1) イシハラホール

やくぺん先生、渡辺和さんのブログのホール芸術監督の話が面白かったです。

特に、この数日そこかしこで出会う音楽ファン、「マニア」と呼ばれるほどの知識と見識の持ち主の方々が、「日本に芸術監督ってそれっかいないんですか」とビックリしている。

http://blog.so-net.ne.jp/yakupen/2007-02-18

公共のホール、特にオーケストラ演奏会をやるような大きなホールは、ただでさえたくさんの人が関わっていますし、よほど強烈な個性や圧倒的な見識のある人が切り盛りしないと、没個性的になりやすそうですね。(いや、もちろん現場はそういう漠然と気楽な話でなく色々なことが起きているのでしょうが。)

それに比べると、ソロリサイタルや室内楽をやるような小規模ホール、特に民間のホールは、他の地域でもそうだと思いますが、関西でも、それぞれ会場の雰囲気も企画も個性的で、スタッフのキャラクター、「顔」が見えやすい気がします。

私がよく行かせてもらう範囲で言えば、イシハラホール、いずみホール、ザ・フェニックスホール(以上、大阪)、青山音楽記念館バロック・ザール(京都・上桂)など、それぞれ独自のムードを持っているように思います。

一気に書くのは大変なので、まずは、五十音順で、大阪駅から四つ橋筋を南へフェスティバルホールのさらに先まで下ったところのイシハラホールから。

http://www.ishihara-hall.co.jp/

池辺晋一郎さん、野平一郎さん、堀正文さん(率いる「イシハラ・リリック・アンサンブル」)といった「全国区」のオジサマ方も定期的に登場していますが、関西出身で海外で活躍している若手をよそより一足早く紹介するところが一番の特徴かなと思います。

今や東京芸大助教授になってしまわれた滋賀出身の玉井菜採さん(ヴァイオリン)や、今やすっかりセレブな文化人(?)の大阪出身、幸田浩子さん(ソプラノ)のリサイタルが、割に早い段階で企画されたり、ピアノでは、児玉桃さんのリサイタルも前から何度か行われていますし、相愛大から東京・お茶の水大へ移られる直前に、小坂圭太さんがバッハ「パルティータ」全曲演奏という恐ろしい企画(約三時間)をやったこともありました。

派手に広告を打たないので、気づいていない人もいらっしゃるかも知れませんが、自主公演の出演者は、かなり厳選されている印象です。

会場も、階段・ロビーにびっしり絨毯が敷き詰めてあったりして、なんとなく「ハイソサエティ」な雰囲気。

石原産業のビルの一角、一階の受付を通ってから専用エスカレーターで上がった3階部分がフォワイエと演奏会場という構造ですが、入り口のレセプショニストの方は、必ず「いってらっしゃいませ」という風に声をかけてくださいます。招待受け付けでは、一度行ってご挨拶すると、二度目から完璧に名前と顔を覚えていてくださっていたりして、お客さんと一対一で接するポリシーのようです。なんとなくホテルっぽい雰囲気。ここまで徹底しているところは、めったにないと思います。

ホールをプロデューサーとして取り仕切っていらっしゃる戸祭鳳子さんは、元NHK大阪の音楽ディレクターで、朝比奈隆さんの番組などを制作して、その筋ではよく知られた方らしいですね。

自主公演の時は必ずロビーに顔を出していらっしゃいますし、そういう意味で、文字通りスタッフの「顔が見える」ホール。

パンフレットはCDジャケットを一回り大きくした正方形に近い形でデザインも統一されていて、中身は、余白をたっぷりとった、ゴテゴテ水増ししない「お品書き」風(「読売新聞」大阪版で音楽評を書いている大久保賢さんの誰もマネできない切り口・語り口の解説が毎回秘かな楽しみです)。すみずみまでこだわって運営されているなと思います。

フォワイエで堂々と喫煙できるのは今や関西ではここだけですし、小さなホールですが強烈な存在感ですね。

演奏家や音楽マネジメント主催の公演もありますが、「イシハラ戸祭イズム」を体験するには、やはり、自主公演へ行くのが一番かと思います。