関西の「顔が見える」小ホール (2) ザ・フェニックスホール

大阪駅東口から南へ梅田新道を下って、国道2号線との交差点に立つ高層ビル、ニッセイ同和損保フェニックスタワーの1〜4階部分がザ・フェニックスホール。

http://phoenixhall.jp/

あいうえお順ではなくなってしまいますが、イシハラと比較しやすそうなので、次はこのホールについて。

大阪キタの新地・中之島・淀屋橋というビジネスマンさんがたくさん働いたり、アフターファイヴを過ごされたりする地域の北東の角ですね。イシハラホールはこの一帯の南西ですから、長方形の対角線の位置関係。平日の仕事帰りに立ち寄りやすい位置ということになるのでしょうか。「街の灯り」シリーズと題して仕事帰りに便利な19:30からのコンサートを企画したりもしているようです。

(ここやイシハラ、フェスティバルホールなど、このあたりのホールへ行くときは、大阪駅へ帰るものすごい数の人の列をかき分けて、逆方向へ歩くことになるので、自分は人の道に外れた生き方をしているのかな、とかすか心が痛みます。^^;;)

オフィスビルの一角を利用して、1階が吹き抜けの広々したエントランス。専用エスカレーターで上がった2階がフォワイエ、3,4階がホールという構造もイシハラホールとよく似ているのですが、実際に入って受ける印象は対照的かもしれません。

ビル全体が、直線を上手に組み合わせたモダンな設計で内装もすっきり。ちょうど、映画「THE有頂天ホテル」のレトロな旧館=イシハラホール、モダンな新館=ザ・フェニックスホールというイメージかもしれません。

ホール空間も、イシハラホールが伝統的なボックス型なのに対して、こちらは六角形。一階席は客席が正面を向いていますが、二階席は客席が五つのブロックに分かれているので、六角形を実感できますね。

舞台後方が夜景の見えるガラス張りになっているのがこのホールの最大の特徴。コンサート本番中は反響板で窓を塞いで、アンコールになると外を見せるといった演出が定番。公演によっては、最初から外が見える状態にしていることもあって、ステージの照明を落とすと、ホテルのラウンジでライブを聞いているような雰囲気になります。先日20日のエマ・カークビー&ヤコブ・リンドベルイのダウランドとパーセルも、リュートの横で、カークビーさんは基本的に椅子に座って歌っていたので、まるでギター&ヴォーカルのボサノバ・コンサートみたいな景色でした。二階席だと、プレイヤー越しに外の夜景がぴったり視界に収まって本当に良い感じ。

1階からのアプローチこそ専用エスカレーターがありますが、上下階を移動するエレベータホールはビル全体の共用だったりして(これは設計方針というより構造上の都合が多いのだとは思いますが……)、結果的に、コンサートを外の世界から無理に切り離さない、「開いた」印象の強いホールになっている気がします。

音楽監督はアリオン音楽財団の江戸京子さんで、古楽や、いわゆるワールドミュージック系の公演がかなりあるのは、江戸さんの考えが反映しているのかなと思ったりします。

でも、通常の公演の時に「顔が見える」のは、館長さん以下の常勤スタッフさんですね。もちろん制服のレセプショニストのお姉さま方が要所要所にいらっしゃるわけですが、それ以外のスタッフさんも積極的に外に立って、お客さんにも適宜声をかけたりして、割とフラットな関係作りを心がけておられる印象があります。

講演(事前に用意した原稿や資料を客席に配付する本格的な講義形式)と演奏を組み合わせたレクチャー・コンサートも、2003-2005年の「ピアノはいつピアノになったか?」以来、すっかり定着した感じですね。今週末には、篠田正浩さんを迎えた武満徹没後10年企画の第二弾があります。(今回は音楽の実演はなし。映画を一本全編上映するのでトータルで3時間くらいになるらしいです。)

「音楽の越境者」
篠田正浩が語る武満徹「音楽の越境者」
2007年2月24日(土) 17:00-
出演:篠田正浩(お話・映画監督)
篠田正浩監督/映画「心中天網島」鑑賞とレクチャー

http://phoenixhall.jp/sponsor/series/2007/5/%E7%AF%A0%E7%94%B0%E6%AD%A3%E6%B5%A9%E3%81%8C%E8%AA%9E%E3%82%8B%E6%AD%A6%E6%BA%80%E5%BE%B9%E3%80%8C%E9%9F%B3%E6%A5%BD%E3%81%AE%E8%B6%8A%E5%A2%83%E8%80%85%E3%80%8D

舞台や一階部分の客席は自由に移動可能で、昨年は、ステージをT字型にしてベッリーニのオペラを上演したり(ソプラノ+メゾ+ピアノによる抜粋版)、高木和弘さんがステージを客席が四方から囲む配置にして無伴奏ヴァイオリンのコンサートを開いたり、新しい試みにも意欲的。既成の枠にとらわれない企画の受け皿として、「エヴォリューション・シリーズ」を毎年公募したりもしていますし(ちなみに、オペラの試みは「エヴォリューション」応募企画)。

型にはまらない企画に積極的な分、裏方の仕事は大変なのだろうと思います。特定の誰かというより、企画から当日の受け付け、舞台設営まで、スタッフの方々が総出で動いているのを感じるホールですね。オシャレでモダンな空間なのですが、ひとつひとつの公演に手作りの感覚がある。