京都市交響楽団第510回定期演奏会、大阪シンフォニカー交響楽団第123回定期演奏会

春は人事異動の季節。京響では、大友直人さんが七年間務めた「常任指揮者&アーティスティック・アドヴァイザー」から名誉職的な響きのする「桂冠指揮者」へ、大阪シンフォニカーでは、大山平一郎さんが三年間務めた「ミュージックアドバイザー・首席指揮者」を退任、それぞれの肩書きでの最後の定期演奏会がありました。

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3/9、京都コンサートホールの大友直人指揮・京響定期はマーラーの交響曲第9番。批評を京都新聞に書かせていただきましたので、演奏等については省略。1995年の正指揮者就任から数えると既に13年間京響と仕事をしていて、今後も大友さんが企画・出演するシリーズは続くようですから、本当に長いおつきあいになっていますね。

大友さんが正指揮者だった時代の常任指揮者は、ウーヴェ・ムント(超一流というわけではなかったかもしれないけれど、ドイツ系、国民楽派系の選曲で趣旨鮮明)と井上道義(ご存知のとおり、ほとんど異星人のように何が出てくるかわからない人)と個性が強くて、大友さんは影が薄い感じがあって、2001年の常任指揮者発表は、どうなるのだろう、と思われていた気がするのですが、終わってみると、新しいシリーズを立ち上げたり、演奏は水準をきっちり維持して楽員の世代交代を乗り切って、充実した七年間だったですね。(レパートリーは、大曲を取り上げたと思ったら実は東京交響楽団でやる/やった曲だったりして、ちょっと寂しい気もしましたが、そういうところも、冒険をしない大友さんらしさでしょうか。)

大友さんが実はオーケストラの「運営」ができる人だった、本人の資質が開花したのだ、ということでもあると思いますが、2001年の段階=大阪ではまだ朝比奈さんがご存命だった時期に「この人でいく」と判断を下して、一旦決めたらちゃんと仕事をしてもらうという風に持っていった市・楽団も立派。こういう風に、上手に人を使う(育てる?)のは、京都という街の気風でしょうか……。

そういえば、このブログの家主である「株式会社はてな」も、4月から京都に本社移転ですね。

(「沼尻竜典でいく」と決めたお隣の滋賀県も頑張ってください。)

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3/21、ザ・シンフォニーホールの大山平一郎指揮・大阪シンフォニカー定期は、エルガーのヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン:竹澤恭子)とブラームスの交響曲第2番。エルガーの大曲をよくやり切ったと思いますし、ブラームスは、とにかく「歌、歌、歌……」。第1楽章は、ゆったり始まって、不自然でなく途中で動きを速めて、最後をゆったり歌い収めるという風に全体の構成をきれいな弓の形に作っていて、第2主題など、旋律の3拍目のアウフタクトに合わせてオブリガートの三連符が「ラタタラタタ、ラ〜タタ」と一緒になって伸縮する、今時の指揮者ではもうなかなか見られなくなったこだわりで、ここまでやるんだ、と思いました。

最後に特別にアンコールがあって、曲はエルガーの弦楽セレナード。これがまた気持ちのこもった演奏で、ああ、やっぱり大山さんは弦楽器の人だな、と思いました。

ブラームスの場合も、改めて考えてみると、メロディー(内声に隠れた動きを含む)を丁寧に追いかけていって、他はそれを背景としてサポートするというやり方。ひょっとすると管打楽器奏者には面白くないところがある三年間だったかもしれませんね(タイミングの取り方など、あまり管・打に優しい指揮ぶりではないですし)。

出来上がった音楽も、旋律をその他が追いかける形なので腰が浮いている感じは否めない。大山さんの作り方と、シンフォニカーの放置されても自主的に力を出すところまでは行っていない若さが相まって、非常に「音楽的」ではあるのだけれども、しっかりした土台の上に旋律が乗っているという安定感は不足していたかもしれません。そこが、同じように透明で攻撃的ではない演奏を目指しつつ、どんどん響きが落ち着いてきている大植・大フィルとの違いかも……。

大山さんは、以前「オレは楽天で言えば野村監督。土台作りをするワンポイント・リリーフの月見草」とおっしゃっていたと伝え聞いたこともありますが……、4月から児玉宏さんにバトンダッチ。お疲れ様でした。また関西でヴィオラも弾いてください(先月の京フィル定期1回だけでおしまいにするのではなく!)

(そして楽団経営者様におかれましては、芸術祭優秀賞授賞式にて、石川さゆり様との記念写真はもちろん喜びの率直な表現ではあるとは思うのですが(私も都合が許せばナマの石川さゆりさんや村田雄治さんを見たかった……)、ここはぐっと裏方に退いて、現場で本当に頑張ってモチヴェーションを維持している楽員の皆さまこそが主役ということで、良い仕事をしているオーケストラメンバーにも、指揮者・独奏者に劣らぬ最良のスポットライトを当ててあげてください! オーケストラは、ギコギコと指示された音を出す単純労働ではなくて、全員が他と入れ替えのできない熟練工である、そういう存在として採用されているはずだし、本当にいい人を採っているか、ということは、演奏に直結する楽団運営の核心の経営判断であるはずだと思いますので。[追記]一般論として、音楽家さんというのはどこかナイーヴで、音楽のことだけ、けなげなくらい必死で「世間知らず」だったり「子供っぽいわがまま」に見えてしまうところがあるもので、正直言って、最近の指揮者・寺岡さんの「大阪はハンガリー音楽になじみがない」発言とか、コンマスさんの「クラシックがまだ根付いていない大阪」発言など、そこだけを取り出すと「えっ?」と思うところもあり……、こういうのがダイレクトに外へ出てしまっている現状、間に仲介・翻訳者的なマネジメントを入れずに直接的な労使関係という形態は、本当に難しくご苦労の多いことなのだとは思いますし、「専門性」に居直るみたいな態度に音楽家が出るということが、もしもあったとしたら、それはそれで問題、本当にそれだけの仕事をしているの?ということが冷静に問われなければならないとも思いますが。[追記おわり])

28日に同じ演目の東京公演があるそうです。エルガーはそんなに簡単に実演される曲ではないとも思いますし、「評論家の書くことは信用ならない」というのは、批評というものが生まれて以来ずっと言われ続けていること、おそらく「最近の若者はなっていない」論と並ぶ人類不変の真理(笑)だと思いますから(笑)、都合の合う方は、どんな演奏かご自身の耳でお確かめください。色々書きましたが、基本的にとても誠実で、行って損したとは思わせない演奏をシンフォニカーは今やっていると思います。