年末以後のあれこれについて、まとめて短信風に書きます。
●フェスティバルホールのレリーフの行く末
一つめはフェスティバルホール最終公演のこと。ビル建て替えで現在のフェスティバルホールが閉鎖になって、最後の公演は大植英次・大フィルの「第九の夕べ」。この公演そのものについても色々思うことはありますが、私が今一番気になっているのは、会場ロビーに飾られていたレリーフの行く末です。
フェスティバルホールの入って左側、クロークの上部には、ベートーヴェンとシェークスピアのレリーフが飾られていました。結構大きなもので、ベートーヴェンはともかく、「何故シェークスピアなの?」(このホールは大きすぎて、新劇・翻訳劇は上演されないのに……)というようなことですが、これは、(私も最近知ったのですが)戦前以来の朝日会館から受け継がれたものだったようです。(朝日会館は、当時まだ目新しかった新劇にも力を入れていたそうです。だからシェークスピアなのでしょう。)
フェスティバルホールは50年の歴史があるわけですが、朝日会館時代まで遡って、大阪における朝日新聞社の文化事業の歴史(昭和と平成をカヴァーする80年弱の)ということを考えたほうがいいのではないか。そんなことを、フェスティバルホール最終公演を聴きながら思いました。はたしてあのレリーフは、2012年にできるとされている新しいホールへ継承されるのか?
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↑戦後、東京のオペラ美術でご活躍だった妹尾河童さんも、若かりし頃は大阪、朝日会館の美術スタッフでした。
●京都のチェロアンサンブルと黒沼俊夫
京都府民ホール・アルティの「チェロアンサンブルの愉しみ」という演奏会については、日経新聞夕刊(大阪版)に批評を書きました(1/21に掲載されたはず)。上村昇さん、河野文昭さんが中心になって恒例になっている企画ですが、いつも舞台では、河野さんが司会役。
客席にいると、「この会はよろしいなあ」というご婦人の声が聞こえてきて、まるでお能の会みたいだなあ、と思ったりするのですが(アルティは御所の西側で、隣りには本当に能楽堂があります……)、
河野さんが
「京都のこういうチェロのアンサンブルは、私と上村さんと、それから黒沼俊夫先生とでやったのが最初(1982年?)だったと思います」
と黒沼せんせいの名前を出すと、会場から「ああ、そうだった」という調子でうなずく声が上がっておりました。
黒沼俊夫さんのことを大切な思い出にして今も室内楽を楽しんでいるお客さんがいらっしゃるんだなあ、と改めて思った瞬間でした。
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●2008年音楽クリティック・クラブ賞と『日本ジャズの誕生』
関西の音楽評論家の親睦団体、音楽クリティック・クラブでその年の演奏会のなかから選ばせていただいている「音楽クリティック・クラブ賞」。私は都合で出席できなかったのですが、2008年の贈賞式と記者発表が1月14日に行われました。
対象公演と贈賞理由など、関西クラシック音楽情報で掲載してくださっています。(法林さん、いつもありがとうございます。)
2008年度 (第29回) の「音楽クリティック・クラブ賞」は,中野振一郎 (チェンバリスト)に,「音楽クリティック・クラブ奨励賞」は,金子鈴太郎 (チェリスト),Vivava Opera Company (オペラ団体)に,また今年は特に,神戸女学院 (『煌きの軌跡 一大澤壽人作品資料目録一』に対して) に「音楽クリティック・クラブ特別賞」が贈られることとなり,1/14に贈賞式が行われた.
http://music-kansai.net/award03.html
今年は、特別賞の神戸女学院について、贈賞理由を執筆させていただきました。
音楽クリティック・クラブ特別賞 贈賞理由 神戸女学院(『煌きの軌跡 - 大澤壽人作品資料目録 - 』に対して)
神戸生まれの作曲家、大澤壽人(1906/1907-1953)は、近年再評価が著しく、戦前関西の音楽シーンを振り返る上で欠かせない存在になりつつある。阪神間山の手の私鉄沿線ブルジョワ文化は、道頓堀ネオン街の大衆文化とともに当時のモダニズムのうねりを特徴づける現象であった。大澤壽人の華々しい経歴と作品群は、同時代を道頓堀ジャズの中で育った国民的ソングライター服部良一(1907-1993)と好一対の、音楽における関西モダニズムのハイライトと位置づけ得る。
大澤作品のCDが相次いでリリースされ、関西フィルハーモニー管弦楽団等による再演が活発になった裏には、遺族から寄贈された自筆資料を適切に管理、運用している神戸女学院の取り組みがある。同校が2007年12月4日に刊行した『煌きの軌跡 - 大澤壽人作品資料目録 - 』には、オリジナル作品と放送用等の編曲を含めて約700曲が収録されている。2006年8月の資料の受け入れから、わずか1年余りの短期間で本書を完成させた生島美紀子をはじめとする作業スタッフの仕事ぶりには目を見張るものがある。
本書は、大澤の創作活動の広がりを知るうえで、今後の基本文献となる著作である。関西の貴重な音楽資産を後世に伝える重責を果たしつつある神戸女学院の意気に、心からエールを送りたい。(白石知雄)
この文章で名前を挙げた服部良一(のアレンジの秀逸さ)については、最近出た「日本ジャズの誕生」でも詳しく語り合われていますね。
(1) エマヌエル・メッテルのもとでの勉強会と、そこで学んだ服部良一による東京での研究会(響友会)のつながりを検証して、メッテルの名前がジャズの本で正面切って語られていること、(2) ジャズとクラシックがはっきり隣接するジャンルだったことの指摘(ビッグバンドにおけるアレンジの重要性というのがクラシックの理論を学ぶ動機づけになっていた)は、画期的なんじゃないかと思いました。本自体のメイン・テーマは、菊地成孔の年来のスタンスとも緩やかに連携しつつ、「ジャズは本来、喫茶店で難しい顔で傾聴し、それをネタに議論するものではなく、ダンスホールで踊るものであった」という歴史を掘り起こすことだと思いますが……。
(ちなみに大澤壽人は、ボストン留学時代に晩年のガーシュウィンやポール・ホワイトマンの実演を聴いていたようです。)
- 作者: 瀬川昌久,大谷能生
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