大栗裕、吹奏楽方面(「管楽器と打楽器のためのディベルティメント第1番(小組曲)」とスウェーデン放送響のこと、NHK-FM「吹奏楽のひびき」11/14の大栗裕特集のこと)

なぜだかよくわからないのですが、このところ大栗裕と縁のあるものが相次いで色々出てくるようで。

その1:

朝比奈隆ヨーロッパ・ライヴ第3弾としてリリースされた1956年のスウェーデン放送交響楽団ライブ。朝比奈隆は、彼らと2つの演奏会をやっていて、このライブ盤とは別のもう一つのコンサート(11/27or28)で大栗裕の「管楽器と打楽器のためのディベルティメント第1番(小組曲)」を演奏しているらしいのです。(大栗裕のディベルティメント第1番「小組曲」についてはこちらをどうぞ → http://www3.osk.3web.ne.jp/~tsiraisi/musicology/article/ohguri-fantasia-osaka2.html

メンデルスゾーン:「フィンガルの洞窟」序曲、芥川也寸志:弦楽合奏のためのトリプティクより第1楽章、第2楽章、ベートーヴェン:交響曲第4番

メンデルスゾーン:「フィンガルの洞窟」序曲、芥川也寸志:弦楽合奏のためのトリプティクより第1楽章、第2楽章、ベートーヴェン:交響曲第4番

  • アーティスト: メンデルスゾーン、芥川也寸志、ベートーヴェン,朝比奈隆,スウェーデン放送交響楽団
  • 出版社/メーカー: WEITBLICK
  • 発売日: 2010/10/29
  • メディア: CD
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その2:

NHK-FM「吹奏楽のひびき」の次回11/14は「木村吉宏と語る大栗裕の世界」。番組ウェブサイトの予定曲を見ると、主要吹奏楽曲とあわせて、交響管弦楽のための「雲水讃」初演放送の録音(森正指揮・大阪フィル、1961年)も一部聴けそうです。注目。

http://www.nhk.or.jp/classic/hibiki/

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放送についてはひたすら聴くのが楽しみ、ということで、以下、1956年の朝比奈隆とスウェーデン放送響について。

HMVサイトの説明に、

このコンサートは長らく1956年11月27日の演奏とされてきましたが、新たな調査の結果当時の出演料支払い明細までもが見つかり、12月1日と判明しました。

http://www.hmv.co.jp/news/article/1010210070/

とありますが、たぶん、こういうことだと思います。

大フィルの調査で、朝比奈隆は1956年11月27日と30日にスウェーデン放送交響楽団の演奏会を指揮した、とされてきました(「大フィル50年史」その他でデータが公表されています)。

このうち、11/27に「フィンガルの洞窟」、芥川也寸志「トリプティーク」、ベートーヴェンの4番を演奏したとされていましたが、今回これが12/1だったらしいということになったようです。

で、もうひとつの従来11/30とされていた演奏会のプログラムは、

  • 山田耕筰 日本組曲
  • 大栗裕 ディベルティメント
  • チャイコフスキー「弦楽セレナード

こっちのほうも、実は日付に怪しいところがありまして、

大栗裕の、従来「管楽器と打楽器のための小組曲」と呼ばれてきた作品の大阪音大所蔵パート譜には、「Stochholm Radioorchester den 27/11 1956」、「Radio Stockholm d. 28/11 56」等と日付入りの署名が書き込まれています。おそらくこれが上記「ディベルティメント」だと思われます。

(1963年に同じ編成の作品「管楽器と打楽器のためのディベルティメント第2番」というのがありまして、この曲の初演時プログラムの自作解説には「5年前に第1番を作曲した」と書かれているのですが、「第1番」に相当する曲が見当たりません。樋口幸弘さんによる大阪市音楽団CD解説などの大栗裕作品リストには「1958年作曲のディベルティメント第1番」というのが出てきますが、おそらく樋口さんも第2番のプログラム等の記述をもとに曲名を載せているだけだと思います。どうやら1956年2月に「小組曲」として宮本政雄の指揮で初演された作品が、朝比奈隆の同年末の欧州での演奏時に「ディベルティメント」と改題して演奏されたようなのです。第2番作曲の7年前のことで、大栗裕が1963年に「5年前」と書いたのは記憶違いだと思われます。

つまり、

  • 1956年2月 管楽器と打楽器のための小組曲初演
  • 1956年11月 同曲を「ディベルティメント」と改題の上、スウェーデン放送響が再演
  • 1963年 管楽器と打楽器のためのディベルティメント第2番初演

ということになります。ちなみにディベルティメント第2番の初演指揮は外山雄三です。)

そしてこの曲の演奏日は、署名を信じるなら11/27or28となりそうなのです。大フィル作成の朝比奈隆海外指揮記録と日付が合わないなあ、とは思っていたのですが、今回の発見で、疑問が解決しそうです。

まとめますと、どうやら、従来「11/27」とされたコンサートは「12/1」、従来「11/30」とされたコンサートが「11/27or28」ということのようです。

  • 1956年11月27or28日:山田耕筰「日本組曲」(詳細不詳)、大栗裕「管楽器と打楽器のためのディベルティメント第1番」、チャイコフスキー「弦楽セレナード」
  • 1956年12月1日:メンデルスゾーン「フィンガルの洞窟」、芥川也寸志「弦楽のための三楽章」、ベートーヴェン「交響曲第4番」 → 今回リリースされたライブ盤
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さて、そして、これは朝比奈隆の3回目の渡欧ということになります。

1回目は、ロンドンをトラブルで逃げ出して、ヘルシンキでフィンランディアを振ったり、フランクフルトでオペラの稽古を見学した経験が関西歌劇団に武智鉄二を招くことにつながったり、同じくフランクフルトでフルトヴェングラーに声を掛けて「ブルックナーは原典版でやれ」と言われ、急遽、大阪へ使用楽譜の変更を指示してオケの写譜係をしていた大栗裕が大あわてで新しいパート譜を作ることになった一件があったり、そのあとニューヨークで吉田秀和に出会ってドイツのオペラ事情の情報交換をしたことが吉田の欧州探訪記に出てきたりする、日本の再独立直後で話題満載・波瀾万丈の1953年秋から1954年2月の大旅行。

2回目は、ベルリン・フィルで「大阪俗謡による幻想曲」を指揮したりした1956年6月から8月の渡欧。(この間に大阪では、関響に出演予定で来阪途上の宮城道雄の列車転落死という大事件が起きています。)

3回目は、大フィル作成の朝比奈隆海外指揮記録によると、上記ストックホルムの2回の演奏会のあと、12/12にエーテボリ交響楽団を指揮したようです。

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今度出たライブ盤は、ベルリン・フィルで取り上げたのと同じ芥川作品とベートーヴェンの4番なのが驚きですね。ベルリン・フィルとの演奏もこんな感じだったのだろうか、と想像がふくらみます。

そして、ベートーヴェンの第2楽章の真ん中あたりで、ちょっと指揮がもたついている雰囲気のところで一生懸命ついてきてくれている木管の皆さんが、この演奏の数日前には大栗作品を演奏してくれていたのだと思うと、なんだか妙に親近感が涌いてきます。

(大栗裕の「ディベルティメント」(小組曲)の自筆スコアの最後のページには、各パート譜の署名とは別に、寄せ書きのようにしてスウェーデン放送響の演奏メンバー全員の名前が並べて書いてあるのです。演奏を聴きながら、「ああ、これは、皆さん方のことだったのですね!」とご対面を果たせたような気がしてしまうのでした。朝比奈隆は楽員と仲良くなるのが上手い指揮者だったようですから、きっと友好的な雰囲気のなかで、彼らは見知らぬジャパニーズ・コンポーザーの譜面に記念のサインしてくれたんだろうと思うんですよ。

なお、どうして朝比奈隆がベルリンで芥川作品を取り上げたのか、確定的なことは言えませんが、作曲家デビュー当時の大栗裕が一番意識していたのは、その頃マスコミでも話題になるほどだった「三人の会」だったのではないか、と私は考えています。→ http://www3.osk.3web.ne.jp/~tsiraisi/musicology/article/ohguri-fantasia-osaka2.html

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ちなみに、1956年に朝比奈はベルリン・フィルで「大阪俗謡による幻想曲」を演奏したわけですが、それから19年後。今度は大フィルを率いた欧州公演の終盤、1975年10月24日にベルリンSFBホールで演奏会を開いていて、ここでも「大阪俗謡による幻想曲」を演奏しています(プログラムは、大栗裕「大阪俗謡による幻想曲」、朝比奈千足の独奏によるウェーバー「クラリネット協奏曲第1番」、ベートーヴェン「エロイカ」)。大フィル60周年記念の私家版に入っている「俗謡」は別の日の録音ですが、10/24の演奏会曲目のうち、「エロイカ」は、LP化されて、最近では大フィル・エディションとしてCD化もされていますね。

で、先に朝比奈隆ヨーロッパ・ライヴ第2弾として出たベルリン・ドイツ交響楽団とのハイドンは、この4年前1971年に、同じSFBホールで収録されたようです。

ハイドン:交響曲第92番「オクスフォード」、交響曲第99番、インタビュー 朝比奈隆指揮ベルリン・ドイツ交響楽団(旧西ベルリン放送交響楽団)

ハイドン:交響曲第92番「オクスフォード」、交響曲第99番、インタビュー 朝比奈隆指揮ベルリン・ドイツ交響楽団(旧西ベルリン放送交響楽団)

  • アーティスト: 朝比奈隆指揮ベルリン・ドイツ交響楽団(旧西ベルリン放送交響楽団),フランツ・ヨゼフ・ハイドン,朝比奈隆,ベルリン・ドイツ交響楽団(旧西ベルリン放送交響楽団)
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1956年のベルリン・フィルとの「大阪俗謡による幻想曲」、あるいは、1975年の大フィルのベルリン演奏会での「大阪俗謡による幻想曲」。どちらも、直接聴くことはできませんが、その当時の雰囲気を感じさせる録音が、色々揃いつつあるようです。有り難いことです。