大阪フィルの定期初日、客席へ入ると、数年前まで冬の集中講義でお世話になっていた指揮者のY先生が鳴門からいらっしゃっていました。シュトゥッツマン来日せず!の窮地を救った立役者、ソプラノの小川明子さんは、Y先生の奥様だったのでした。
聞けば、小川さんは「大地の歌」を数年前に東京のアマチュア・オーケストラと共演して、そのときに、分奏練習にもつきあって歌う、というように徹底的にやったことがあったのだそうです。
ドイツ語を完璧に響かせる実力があったうえで、曲が隅々まで入っているから、あの安定感だったのですね。
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- 作者: 渡辺裕
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「マーラーは、過去数十年で散々演奏され、語られてきた作曲家なので、いまさら何かを発見して驚く余地はない。興味深い音楽家ではあるけれど、決着はついている。「大地の歌」は、全体の後ろ半分を占める、いわば「第二部」の最終楽章だけが突出して重要で、でも、若いときに共感できそうな内容ではなく、前半「第一部」の5曲は彼の管弦楽伴奏歌曲の総まとめのようなもの。以上。」
……と、やや不遜なことを思ってしまっていたのですが、
なにやら第1楽章から、大植さんはあっちこっちの引き出しを開けて、次から次へと奇怪な音を取り出して来るではないですか。これは普通の意味の歌曲じゃないですね。オーケストラは「伴奏」ではもちろんないし、ドイツ・ロマン派のリートのように「詩」を声と器楽が立体的・補完的に照らすというのでもないし、ワーグナーみたいに、雄弁な朗唱の下で器楽がいわゆる「有機的に」動くというのでもないし、声(詩)と器楽の表現はしばしばズレて軋んで、別々のことをやっているんですね。
「大地の歌」を聴いていると、たとえ長生きしてもシュトラウスの「夕映え」のようなところへは行きそうにないかも、と思ってしまう。
- アーティスト: ヤノヴィッツ(グンドゥラ),R.シュトラウス,カラヤン(ヘルベルト・フォン),ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
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そんなオーケストラの荒波のなかで、いかにもワーグナーを楽々と歌いこなせそうなヴィラーズは、びくともしない「巨人族」という感じ。一方の小川さんは、喧噪のなかで上手に自分の居場所を見つけてしまえる人のようですね。
この曲は、やっぱりものすごく斬新で面白い曲なのかも。死ぬ前にマーラーは途方もないスコアを書き残したのかもしれない、ともう一回考え直したくなる演奏でした。
- アーティスト: クレンペラー(オットー),ヴンダーリヒ(フリッツ),ルートヴィヒ(クリスタ),マーラー,フィルハーモニア管弦楽団,ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
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