「大栗裕は、天の岩屋戸の物語という一番大切な題材を大阪市音楽団に託した」
先日の大栗裕没後30年記念演奏会で、舞台転換(スタッフの皆さまの獅子奮迅の頑張りで、総勢400人が出入りする演奏会としては驚異的にスムーズだったように思います)のつなぎとして、僭越ながら進行役を務めさせていただきまして、わたくしは、授業でも講演でも、原稿を準備して話すということができない性質なので、おおよそのストーリーだけ準備して状況を見ながらやりくりしていたのですが、
第1部の最後に大阪市音楽団が登場する前にこう言おう、というのだけは、あらかじめ決めていました。大栗裕は「神話」を市音に託した、と。
たぶん、そういうことだと思います。
参考:http://d.hatena.ne.jp/tsiraisi/20120406/p1
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が、いつまでも終わった演奏会を引きずっていてはいけないので、別のお話。
吹奏楽とは何なのか? 「大栗裕はホルンだ」みたいに、ビシっと言えるキモをつかめていない気がずっとし続けております。
以前、日本音楽学会の関西支部例会で戸田直人さん(←実は、大栗裕没後30年演奏会にも、大阪市音のトランペットのエキストラとして出演していました、当日楽屋ですれ違ってびっくり)の発表をレポートしたときには、とりあえず、
私見では、吹奏楽は「閉ざされている」というよりも、学校の課外活動や各種イベントで「花形」として公然と陳列されている。むしろ、存在が生々しく露出しているがゆえに、深みと慎みを欠く活動として、その前を素通りされてきたのではないだろうか。生々しい現実と正対することができるかどうか。吹奏楽は、研究者の「勇気」が試されるジャンルなのかもしれない。
MSJ_WEST 2015
と書いてみました。「生々しく露出している」とか、「深みと慎みを欠く」とか、「蓮實(重彦)語」を使ってしまったのは逃げだ、と自覚しております。
ざっくり言ってしまうと、上の文章を書いたとき、私は、吹奏楽にはチンコ丸だし感がある(ダイレクトな言い方をいきなりしてしまって申し訳ない)と思っていて、そのことを学会の公式文書に書いちゃったわけですが、
中谷美紀は、私は服を着ていても監督の前ですべてをさらけだしています、とメイキングの中で女優さんな発言をしていますが、それは、常に丸出しの、いわば「裸族」と正反対の覚悟だと思われ、オーケストラというのは中谷美紀に近い世界なのではないか、……と、私はいったい何の話をしているのか。
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これでは冷静に話ができませんので言い換えると、
パブリックな土地・空間(学校の教室とか)を占有して、なおかつ、公的な補助を受けて(学校に楽器を買ってもらうとか)、そこに厳然と存在しているのだけれども、何故か、それについて語ろうとすると言葉が空転してしまって、でも、当人たちはプライドをもち、本当の実力がどれくらいなのか正確に計測されているわけではないのだけれども実力行使するとそれが許されちゃう気風があって、底抜けに楽天的な明るさを謳歌している感じが、ヤンキーな皆さまの米軍基地に似ている、と言ってみたらどうだろう、と、さっき不意に思いつきました。
(明るい子供をスクスク育てる、という内向きの教育問題には、日本の安全保障という外向きの外交・軍事問題と同じくらいオフ・リミットな領域があるのではないか、と。)
とはいえ、大阪市音楽団(音が「熱い」と感じさせる演奏をするのですね)や、大栗裕が在籍していた天王寺商業学校の音楽部というのは、そういう戦後のスクールバンドとは、つかず離れず、またちょっと違う性質をもっていると思いますし、戦後、大栗裕が吹奏楽に「戻ってきた」ときに彼が考えていたことも、もうすこし複雑な陰影をもっているような気がします。
(大栗裕は、アメノウズメを、あれはストリップ・ダンスだ、とはっきり意識したうえで音楽にしたわけですけれども、でも、それは、吹奏楽的な丸だし感とは、またちょっと違うような気がするのです。吹奏楽的な丸だし感は、単にそういうものがそこにある、という感じですから。)
30日に、いずみホールで、今度は吹奏楽で大栗裕を特集する演奏会があります。この演奏会では、覚悟を決めてざっくばらんに、なおかつ、字数をたくさんいただいたのでデータ的にかなり詳しく、解説を書かせていただきました。
吹奏楽関係者から見た大栗裕の姿は、生前直接交流があった方々からの見え方とはまた違うような感触があります。私自身は、そのどちらでもないところから眺めて、何が言えるものなのか、考えるしかなさそうで……。
わたくしにとって、次は、吹奏楽についてよく考えてみる演奏会になるんじゃないか、という気がしております。
http://www.osakan.jp/concert/teiki12.html
吹奏楽は難物です。
「赤い陣羽織」を演出した武智鉄二が、米軍キャンプの横で女の子を素っ裸で走らせる映画で裁判沙汰になった、という60年代アヴァンギャルドなエピソードのほうが、はるかに話はわかりやすい。
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