書評

『音楽学』に小岩信治「ピアノ協奏曲の誕生」の書評を寄稿しました(編集委員会からの依頼原稿)。

ピアノ協奏曲の誕生 19世紀ヴィルトゥオーソ音楽史

ピアノ協奏曲の誕生 19世紀ヴィルトゥオーソ音楽史

届いた掲載誌を開いて、表紙の裏がいきなりアルテス・パブリッシングの全面広告だったのでびっくり。広告料で学会にご支援いただいた結果なのだと思いますので、「権威ある雑誌に広告を掲載させていただき、ありがとうございます」的な誰が誰をブランディングしているのかよくわからない記事が御社ブログに出ることはないと思いますが……、そんな不安が一瞬ではあれ脳裡をよぎってしまうところが、宣伝して盛りあげた者勝ちな、迫り来る21世紀型ソーシャル・マーケティングの恐怖。「もはや平成ではない」ですねえ……。こんてんぽらりぃ、は大変です。

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  • (a) ドイツ語の学位論文が10年後に日本語の啓蒙書に生まれ変わった
  • (b) 啓蒙書の体裁に学位取得後の10年間の思考と研究の積み重ねが流し込まれているけれど、研究書として学説が仕上げられているとまでは言えない
  • (c) ただし扱われている領域は、音楽として人気だけれども、様々な理由から研究があまり進んでいないので、啓蒙書が出るだけでも画期的

ということで、シンプルな外見だけれども意外に変数の多い連立方程式のような本ですが、だとするとこれは学術書なのか啓蒙書なのか。そしてそれを学会誌で書評するというのはどういうことになるのか。

前半は、(a) に関連して、論文がどうやって啓蒙書に変身したかの検証、後半は、(b)、(c) に関連して、学説の暗示と読み取りうるストーリーについての私の意見を書いたつもりです。

(ちなみに、初夏に、「なんだこの査読は」とここに書いたのがこの仕事ですが、どうやら、学会本部事務局という部署(の業務フロー)が、様々な歴史的経緯で、関わった人間を翻弄する「人間ではないのに人格をもってしまった伏魔殿」になっているようですね。)