ジョルジュ・スーラ問題(ジョナサン・クレーリー『知覚の宙吊り』)

『観察者の系譜』は割合楽しく読み進めることができましたが(http://d.hatena.ne.jp/tsiraisi/20131228/p4)、『知覚の宙吊り』は鬱蒼とした森のようで、なかなか先へ進めない。ワーグナーの楽劇やブルックナーの後期交響曲につきあっているような感じ。試練だ(笑)。

知覚の宙吊り―注意、スペクタクル、近代文化

知覚の宙吊り―注意、スペクタクル、近代文化

  • 作者: ジョナサンクレーリー,Jonathan Crary,岡田温司,大木美智子,石谷治寛,橋本梓
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2005/08
  • メディア: 単行本
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強引に飛ばし読みして、分厚い本がマネとスーラとセザンヌの話で、だから岡田湿司先生の監訳なのか、というようなことがわかる。(「訳者あとがき」には、本書を芝居に見立てる明快な説明があって、これを先に読んでおけばよかったとやや後悔する。)

『観察者の系譜』は、ロマンティック・バレエがパリ・オペラ座で上演されていたルイ・フィリップの「7月王政」(←という項目がウィキペディアにありますが、この時期を指すのはこの言葉でいいでしょうか)からナポレオン3世の第二帝政までのお話。

(普仏戦争敗北でパリが混乱したときにオペラ座でのロマンティック・バレエ公演も消滅したらしいので、話の平仄が合う。バレエ・リュスが来る20世紀初頭まで、バレエはペテルブルクにいわば疎開する。舞台芸術における露仏同盟ですね(笑)。逆に言うと、「音楽の国ドイツ」こそがバレエの敵であったという……。そのうえワルツの都ウィーンを仲間はずれにして「小ドイツ」でまとまっちゃったわけだから、ほんとにドイツは「踊らない帝国」ですね。サロメのストリップで大当たりを取ったリヒャルト・シュトラウスが「ばらの騎士」でワルツに回帰したのは正しい本能なのであって、踊らない民族は亡びる、という舞踊の文明論みたいなホラ話をしたくなる。行進と体操があれば十分に健康を維持できる、というのは、たぶん違うんだと思う。)

『知覚の宙吊り』は第三共和政時代のお話で、視線が宙を泳いでいるマネがその入口、眼力で表象を破壊してしまった後期セザンヌがその出口、というのは、既存の美術史の知識をアップデートする感じに読み進めることができそうなのだけれども、時代の肉厚な真ん中がスーラだ、というのが大変。普通スーラとワーグナーを結びつけて考えたりはしませんもんね。

(「ブルックナーの学生」のなかに、「形態質について」[Gestaltqualität は、形態質、と訳すことになっているらしい]のエーレンフェルスという人がいたのは知りませんでした。Christian Freiherr von Ehrenfels (1859-1932) ウィーン生まれの貴族でウィーン大学に学んだそうなので、そのときブルックナーの講義に出たということでしょうか。)

Christian von Ehrenfels, in Rodaun bei Wien geboren, wuchs auf dem Schloss seines Vaters in Brunn am Walde in Niederösterreich auf. Er besuchte die Realschule in Krems und studierte zunächst an der Hochschule für Bodenkultur in Wien und wechselte dann zur Universität Wien.

Dort studierte er Philosophie bei Franz Brentano und Alexius Meinong, promovierte bei Meinong nach dessen Wechsel an die Karl-Franzens-Universität (Graz) 1885 mit dem Thema Größenrelationen und Zahlen. Eine psychologische Studie. Er habilitierte sich 1888 in Wien für Philosophie mit der Schrift Über Fühlen und Wollen.

Christian von Ehrenfels – Wikipedia

でも、第三共和政フランスをジクジクと抜けの悪い、容易に見通しのきかない時代として記述するのは、そのほうがいいのかもしれない、とは思います。戦争に負けたあとの「失われた40年」だったんですよね、たぶん。

参考:http://d.hatena.ne.jp/tsiraisi/20130616/p1

コンフィダント・絆 (PARCO劇場DVD)

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三谷幸喜が大物・中井貴一をスーラにキャスティングしたのは、正しかったのかもしれない……。「点々」の人。「“点々”って言うな!」

第三共和政パリのボヘミアン芸術家って、ロスジェネ、高学歴ワーキングプアだよね。

G. シャルパンティエ:歌劇「ルイーズ」(短縮版)(1935)

G. シャルパンティエ:歌劇「ルイーズ」(短縮版)(1935)

  • アーティスト: ギュスターヴ・シャルパンティエ,ウジェーヌ・ビゴ,パリ管弦楽団,ロージェル合唱団,ニノン・ヴァラン,ジョルジュ・ティル,アンドレ・ペルネ,エーメ・ルクヴルール,クリスティアーヌ・ゴーデル
  • 出版社/メーカー: Naxos Historical
  • 発売日: 2003/08/01
  • メディア: CD
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