脱サイコ

「めまい」とか「サイコ」とか、私はまったく心が動かない。

「刑事コロンボ」を順にみていくと、はじめの頃は殺人者の心理を原始的なCGとかスローモーションとかの映像表現で彩ったり、病んだ心を抱えるキャリアウーマンの犯人が設定されていたりして、「まだるっこしいから早く話を先へ進めようよ」と思ってしまうのだが、あれは、ヒッチコックの影が射していると考えればいいのだろう。

たぶん、ヒッチコック色を脱したから長く続くシリーズになったんじゃないかしら。

刑事コロンボ完全版 1 バリューパック [DVD]

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はやり廃りは循環している。

レベッカ(Rebecca) [ブルーレイ]【超高画質名作映画シリーズ?】

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過去の影が現在を侵食して、ヒロインが死んだ女性と瓜二つの格好をさせられるパターンはレベッカに既にあるけれど、そういう欲望がドロリと画面に露出するのは「めまい」から、か。彼の理想を体現したようなブロンドのクール・ビューティ、グレース・ケリーが映画の世界からいなくなったあたりから、ヒッチコックは「狂う」わけだが、それをみると、私は、「いってらっしゃい、気をつけて」と向こうの世界へ行ってしまう人たちをこちら側から見送る気持ちになる。そこは、どれだけ誘惑されても、あたしゃ行かない。

「裏窓」のジェームズ・スチュアートは足を骨折していたから向こうへ行けなくて、代わりに犯人宅へ乗り込むグレース・ケリーが素敵なわけだが、「めまい」の彼は金髪の美女を追跡しちゃうんだよね。彼はそのおかげでトラウマを克服したからいいようなものの、こうして後期ヒッチコック・ワールドへ好奇心で吸い込まれる男たちのなれの果てが、「サイコ」で階段から凄い姿勢で転がり落ちる私立探偵アーボガストなのでしょう。「ここはお前なんかが来るところじゃない」と言われちゃった感じがある。

蓮実重彦を熱狂させたレストランのキム・ノヴァック。80年代「マリー・クレール」カルチャーですな。

その後、あっちの世界から大半は帰還して、小澤征爾もボストンからウィーン経由で日本へ帰ってきて好々爺になったわけだが、今でも行ったきりで行方不明な人たちが若干いるし、戻ってきても岸壁に腰掛けて、海の向こうを取り憑かれたような目で見つめている廃人さんがいらっしゃったとしてもおかしくはないのかも……。ご家族はさぞご心配なことでしょう。

今の総理は、日本海側の「人攫い」対策に若い頃から熱心に取り組んでいるそうだが、太平洋の向こう岸の夢工場へさらわれていった人たちは、自己責任ということで、誰にも助けてもらえない。