往年の「バロック音楽ブーム」 クルト・レーデルの周辺

カール・フィリップ・エマヌエル・バッハの生誕300年。ニ短調のフルート協奏曲は比較的取り上げやすいということで、あちこちで演奏されているみたいなのですが、この楽譜を整理・出版して広めたのは、ミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団の創始者でフルート吹きのクルト・レーデルなのだそうです。

で、そう言われると、いちおうYouTubeで検索してみようと思うじゃないですか(思いませんか?)。

そうすると、小岩信治さんが『ピアノ協奏曲の誕生』でも取り上げていたエマヌエル・バッハのピアノとチェンバロの二重協奏曲をレーデル指揮のプロ・アルテが演奏しているのが見つかったりする。

始まってすぐにソロを吹いているフルートが誰なのか、よくわかりませんが、NMLのほうだと、若かりし頃のモーリス・アンドレがハイトーンを連発するブランデンブルクの2番がある。

http://ml.naxos.jp/work/2343340

今どきの古楽のバロック・トランペットの音ではないけれど、こういう感じにバッハやヘンデルの周辺の音楽を発掘して、室内オーケストラと呼べそうな編成で演奏する「バロック音楽ブーム」というのが、戦後、あったらしいんですよね。

リアルタイムには知らないので、「あったらしい」としか言えませんが、「バロック音楽」は、資料を「研究」する学者が音楽にも必要なのである(高邁な「思索・瞑想の人」だけでなく)、と一般の音楽ファンのアピールするときにも便利な、今では失われた往年の高貴な宮廷音楽ですし、なおかつ、こういう「バロック音楽の団体」(当時)は、「研究」と「実践(演奏)」が一体でなければならないのだ、という姿勢が感じられるカウンターカルチャー、DIY(自分のことは自分でやれ)っぽくもあるんですよね。

実際にアメリカから、チェンバロやリュートの「自作キット」を配布するガレージ・ベンチャーが出た時代でもあったりする。

フォークやロックでガチの反体制を叫んだりはしないけれども、重厚壮大なロマン派ではない、マイルド反体制、な感じが「バロック音楽ブーム」にはありそうですね。

大学の「音楽学」ってのはこういうのをやるところだ、というイメージがかつてはあった(ような気がする)。音大といっても、ピアノやヴァイオリンみたいに「門下」の縦社会がごっつい厳しいのとは、少々様子が違うのだ、みたいな。

そのことは、当時を知っている人がいなくなる前に、どこかにはっきり書き留めておいたほうがいいような気がする。

古楽、ピリオド・アプローチ的な「手法」を、「新しい戦術」としてビジネス情報戦に組み込んだり、その界隈をスター発掘の人材バンクと見るような切り口だと、見えなくなってしまうけれど、この感じは今でも完全になくなったわけではないような気もするし。