マーラー終了

[追記:こちらも合わせてご一読いただければ。→ http://d.hatena.ne.jp/tsiraisi/20140907/p3 ]

大阪音楽大学音楽院の講座、90分でマーラーの概略をご紹介する企画、終了しました。ご来場くださった皆様、ご静聴ありがとうございました。

次回は、おそらく年度末になるかと思いますが、会場でもお話しておりました通り、「バッハの今昔」(仮題)ということで開催させていただければと思っております。

引き続きどうぞよろしくお願いします。

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ということで、にわかにマーラーのことを言い始めたのは、今日の準備だったのですが、

考え始めると、あれもこれも、とご紹介したい話題が多すぎるこの音楽家について、どうにか、当初想定していたトピックをひととおりご紹介できたので、今はほっとしています。

私個人としては、リヒャルト・シュトラウスのマイブームに続いて、盟友と言って良いであろうマーラーの大作「千人の交響曲」の歴史的な位置や特徴を自分なりに整理できたことが嬉しい。

(講座では取り上げませんでしたが)展開部のクライマックスに、あんな風にE-durの主題を出す、というだけでも、マーラーは本気で何かの集大成をしようとしたんだな、あの巨大さは、こけおどしじゃないな、と納得しました。

とはいえ、今わたくしにとって、マーラーで一番関心があるのは、交響曲でもなく(←「男の子」的な意味でのオーケストラ音楽のカッチョよさは、もういいかげん卒業だ(笑))、東欧のユダヤ人問題でもなく(←本人が弾く交響曲5番の1楽章をみなさんと一緒に聴いて、「君の切実な思いは確かに受け止めた」「ぼくたちは決して君のことを忘れないよ!」的な何かを受信できたような気がするので、この件はひとまず一段落としたい)、

あとはやっぱりオペラ指揮者マーラーですね。

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ワグネリアンの人たちは、当時の指揮者(ほとんど「使徒」ですよねえ)の名前を色々挙げるけれど、全部束になってもかなわないくらいに、マーラーの方が指揮者として偉かったんじゃないか、という手応えがありますよね。

そして、残念ながらマーラーの「演奏」(←この単語、これからも遠慮なく使いますよ!)は残っていませんが、色々な証言があって、弟子筋の人たちから次の世代の指揮者が出ているので、かなりの程度様子がわかりそうですよね。

ドイツのオペラ/音楽劇がこのジャンルの一大勢力として歴史にその存在を刻むことができたのは、ワーグナーをはじめとする作品の「偉大さ」(ワグネリアン的な意味にせよ、そうでないにせよ)のご威光というような精神論で説明すべきものじゃない。1810〜20年代にウェーバーがいて、1830〜80年代にワーグナーがいて、1880〜1910年代にマーラーいて、という風に、それぞれの時代のトップクラスの実力派ミュージシャンが、一生の仕事としてオペラ・劇場に身を捧げて、命をすり減らして馬車馬のように仕事して、オペラのバトンをつないだからなんじゃないかという気がします。

個人の猛烈ながんばりでどうにか持ちこたえられる程度に、19世紀の段階でのドイツのオペラがまだローカルで弱小で、さほどの大事業ではなかったからでもあるし、同時に、頑張れば頑張った分だけの成果と反応を得ることができる「伸びシロ」というか時代の追い風があったということでもあるのでしょう。

そしてその「風」は、20世紀に入って、大戦争が起きたところで止んでしまった。

リヒャルト・シュトラウスは、第一次大戦後に、作家たちと楽しくつきあいながら、そこそこに自分ができる範囲で作曲してるだけですし、上演のときは、舞台や何かは演劇関係のスタッフにお任せですよね。彼は、(もともとそういう気質だったのかもしれないし)ウェーバーやワーグナーやマーラーのように、理想に燃えて、足りないものがあったら自分の責任でどうにかする、というタイプではない。

プロではあるけれど、「使命感」じゃないですよね。

「使命感」で奮起されても周りが困ってしまう感じに、情勢が変化していた、というのもありそうですし、

ともあれ、ウェーバー、ワーグナー、マーラー、この3人の業績を並べると、ドイツのオペラ劇場史みたいなものをかなり面白く整理できそうな気がします。

それぞれの音楽家についての研究はかなりあると思いますが、間をつなぐ作業が地味に大変でしょうし、マーラーは作曲家として劇場に関わっていたわけではないから、もう少し丁寧な言い方を考えないといけないとは思いますが、ドイツ(語圏)のオペラ劇場史のなかのマーラーの位置と役割は19世紀の話と20世紀の話をつなぐ鍵になりそうに思います。

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ということで、「作曲家としてのマーラー」の話は、今回改めて自分なりに整理して、もうおおよそ決着が着いていると見てよさそうだな、と思いました。

歌曲とのつながりが消えてしまったウィーン時代の3曲、5〜7番が何なのか、というところは、「文化史」(渡辺裕)では無理そうで、若干気になりますが、最近話題の「第10番」は……、アルマの浮気とか私は興味ないんで、マニアにお任せします。死んだ人間が残した草稿から、あり得たはずの続きを復元するなんて、なんちゃら補完計画みたいで、ぞっとしない。死んだものは死んだのであって、あきらめがわるいぞ。

モーツァルト:交響曲40番

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モーツァルト:歌劇「魔笛」全曲

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ワルターとクレンペラーの演奏を確認してみると、「魔笛」序曲のアレグロをアラ・ブレーヴェじゃなく、4つ振りのビートで演奏しているのは、バウアー=レヒナーの回想録を読むと、マーラー譲りと考えていいのかなあ、と思えてくる。

一方、1950年(?)のカラヤンは、ウィーン国立歌劇場のオケを快速なアラ・ブレーヴェで振って、楽員さんたちがこれに一生懸命付いていこうとしている……。

Die Zauberflote

Die Zauberflote

シューマンの交響曲は、クレジットされてなくても往年の指揮者たちが秘かにマーラー版を使っている例がありそうですし、「指揮者マーラー」がオーケストラの現場に与えた影響力は、細かく拾っていくとかなりの広がりがあるんじゃないかという予感があります。

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」/シューマン:交響曲第3番「ライン」

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ジュリーニの「ライン」も、マーラー版と同じところでホルンが思いっきり対旋律を吹いているのを確認しましたが、こういうのは、音盤を丹念にスコアと照合する方面が趣味の方々(日本のレコード雑誌界隈にいらっしゃいますよね)には周知のことなんでしょうね、たぶん。[追記:どうやら、ジュリーニがマーラー版を評価していたのは、それなりに知られていることらしいですね。]
シューマン:交響曲全集(マーラー編)

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シューマンの交響曲は、楽譜に公然と手を入れないまでも、あっちこっち調整して演奏されてきたようなので、「マーラー版」と銘打たれても、そこまではっきり特徴がわかる箇所はむしろ少ないですよね。「シューマンは手を入れたほうが効果があがるのだ」という今も曖昧に続いている演奏伝統の有力な源流のひとつがマーラーだ、という言い方のほうが正確な気がします。
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初期ロマン派のオーケストラ音楽は、今もまだピリオド・アプローチのほうがチャレンジングで、でも、バロックや古典派ほど安定した演奏伝統を確立した時代ではないから、どこをどうすればいいのか、大変そうですよね。ブリュッヘンもメンデルスゾーンまでで、シューマンはレコーディングしていない、という理解であってるでしょうか。