「両者は合意の上でコトに及んだ」

外来オーケストラのツアーは、個々の公演の主催が地元のホールや自治体などであったとしても、それとは別に統一プログラムを作ることがありますよね。そしてその統一プログラムにはツアーの全日程が出ていたりする。

これを見ると、結構ハードスケジュールなんだ、とか、ええ、よそではこんな曲もやるんだ、いいなあ、とか思うわけですね。

そして東京は、A、B、Cと三種類のプロがあっても東京・埼玉・横浜をハシゴしたら全部聴ける、とかいうことになっていることが多いから、イナカモノのように「いいなあ」と指をくわえてガマンをすることがない。連中は、飽食で甘やかされているわけですな。いかにも、パンのない人たちにケーキを配ってくれそうだ。(というより、東京の仕切りによる外来オケの「地方公演」は、まさしくパンをほしがる人々にケーキを配給してるようなものかもしれませんよねえ(笑)。)

その流儀でいくと、チューリッヒ室内管弦楽団の場合は、「日本公演」こそ1箇所だけだが、「アジア・ツアー」として統一プログラムを作成したり、せめて、全スケジュールをプログラムに掲載しておくと、面白かったんじゃないかと思う。

楽団の公式サイトの情報(http://www.zko.ch/konzerte/gastspiele-tourneen)を統一プログラム風の書式にまとめると、

  • Program A
    • モーツァルト 交響曲第1番 変イ長調 K.16
    • ベートーヴェン ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 op.19*
    • モーツァルト 交響曲第41番 ハ長調 K.551 「ジュピター」
  • Program B
    • モーツァルト 交響曲第1番 変イ長調 K.16
    • モーツァルト ピアノ協奏曲第21番 ハ長調 K.467*
    • モーツァルト 交響曲第41番 ハ長調 K.551 「ジュピター」

指揮:R. ノリントン、*ピアノ:H. J. リム

  • 2014年10月1日(水) Tongyeong (Südkorea) ・・・A
  • 2014年10月2日(木) Osaka (Japan) ・・・B
  • 2014年10月3日(金) Hong Kong (China) ・・・A
  • 2014年10月6日(月) Bangkok (Thailand) ・・・A

日程・開催地は、ホール名まで調べていないし、公式サイトの欧文表記のままですが、それぞれの公演の主催とか共催とか書き入れて、きれいにレイアウトしたら、りっぱに1頁分のコンテンツが出来上がりそうです。

なんだか、やしきたかじんや勝谷誠彦が東京キー局に配信しないローカル番組で話題になる。という感じのツアー日程になっていて、とっても素敵じゃないですか。

ーーーー

そして一方ノリントンは、今月後半に東京でN響のA定期、B定期に出演して、ベートーヴェンとシューベルトをやるらしい。月の前半の、モーツァルトにリムちゃんの大胆なソロが割り込むプログラムと合わせて、この10月は、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトというウィーンの「もうひとつの世紀転換期」に集中して取り組むわけですね。

こういう風な、楽団と指揮者のアジア・ツアーの全貌こそ、お客様にわかりやすくお伝えして欲しかったかも。「ノリントン80歳記念&日本・スイス国交樹立150周年記念」という冠で興行を打っているのだし、こういう全体像を見せれば、東京の仕切りで組み立てられてきた飽食の旧態依然に新風を吹き込む様子を演出できて、「スーパーグローバルな音楽堂」って感じになるじゃないですかっ!

いらんとこでカッコつけるんやのうて、こういうときにバシっと言わな、あかんがな。ここでビビったら、ヘタレの人生になりまっせ。

      • -

さて、そしてノリントンとリムの共演は、「え、勝谷誠彦がサンテレビのゲストにこんな人呼ぶの?!」というのに似ているわけですよね。軽井沢の別荘に、勝谷が田嶋陽子先生を招待して、番組作ってるよ、辻元清美も呼ぶらしいぜ、みたいな異色の組み合わせ。

(今のいずみホールは、神戸のテレビ局サンテレビみたいなノリである、阪神タイガースに強いし、週末の深夜は快楽の園になる、と見ればいいわけだ。そういえば、ホール名物のあの人は神戸生まれだし、あの人は西宮の関学だしねっ。)

コンチェルトのあとのロビーは、あっちこっちで感想を言い合う人達がいて、会う人それぞれが、こんなにはっきり「好き/嫌い」を言い合っている光景は、クラシック音楽では珍しいことだなあと思いました。

ノリントンが予想外にきっちりくっきりマーチのテンポで導入のトゥッティを組み立てたのに、リムちゃんは全然別の、ノリノリでアフタービートのアクセントの効いたジャズにしか聞こえないテンポで入ってきて、そこからあとは曲が変わっちゃうんですよね。まさにあなた、三宅せんせ(今は津川雅彦)や台湾のあの人などが言うことなど意に介さずに爆走する、たかじんの委員会の田嶋先生状態ですよ!

(アンコールのショパンのcis-mollのノクターンも8分音符の伴奏の奇数拍でルバートするから、まるで付点リズムのハバネラみたいになっていて、別のロジックで爆走する「リム/陽子メソッド」は一貫している。)

で、色々な意見があり、「指揮者が最初に示したのを無視して自分のテンポで弾き始めるのは、いくらなんでも行儀が悪いのではないか、さすがについていけない」という感想が大勢を占めたような印象ですが、あれこれ様々な人と話しているうちに、私は、勝谷誠彦じゃないけれど、「陰謀説」に傾きつつある。

だって、ノリントンとリムは、ビデオを配信しているように事前に楽しく語り合うくらいだから、彼女がどういう風に弾くか、この娘さんはヒップ(Historical Informed....)じゃなくバップだ、というのは、事前にわかっていたはずですよね。だからノリントンは、発想を変えて、ピリオド演奏の常道と彼女のスタイルが食い違う様をイントロで効果的に示そうとしたんじゃないか。トゥッティとソロのテンポが食い違うのは、故意にそうしたんじゃないか。

そう思って振り返ると、2つの交響曲では、ノリントンが冒頭から(というより冒頭の主題提示のときにこそ)、これでもか、と独自のダイナミクスとアーティキュレーションで凝りに凝った表情(←老人芸術家にありがちなヘンタイ的に天衣無縫の「後期様式」感をたたえており、その白眉がジュピターの最後の途方もない二重フーガ!)を作るのに、コンチェルトはこざっぱりしたマーチだったですもんね。わざとオケが普通にやってみせることで、リムちゃんのスタイルとの落差を際立たせる演出だったのではないか。両者合意の上で「事件」が仕組まれたのではないだろうか。

(コンチェルトのイントロは、アウフタクトで次の小節のアクセントを「よっこらしゃ」と準備する、ノリントンらしからぬ「タメ」があった。あれはきっと、古式ゆかしいクラシカル調のパロディですね。で、ソロが入ると、リムちゃんのテンポにオケはすぐにぴったり合わせた。どうも事前の打ち合わせを推察させます。ノリントンはプーチン風に策を弄したのではないか? 英国人からみたアジアは、昭和の昔から「陰謀渦巻く地域」なのですよ。)

政治における陰謀、事実報道におけるヤラセは、あまり幸福ではない結果をもたらすことが多いですけれども、舞台の上のパフォーマンスは、オモロイからええんとちゃうやろか。

(橋下くんも、テレビの中だけで暴れとったら、オバチャンたちに愛される人気者だったのにねえ……って、何の話だ。)