モーラ

音声学基本事典

音声学基本事典

  • 作者: 城生佰太郎・福盛貴弘・斎藤純男編,城生佰太郎,福盛貴弘,斎藤純男
  • 出版社/メーカー: 勉誠出版
  • 発売日: 2011/07/20
  • メディア: 単行本
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英語の fork は1音節だが、日本語の「フォーク」は、「ふぉ」「ー(お)」「く」と3つの音に分けて捉えられている。この3つに分ける単位を日本語論ではモーラと言うのだ、という説明を私が初めて目にしたのは、長木さんの戦後音楽論のオペラを論じた箇所だったと思う。

戦後の音楽――芸術音楽のポリティクスとポエティクス

戦後の音楽――芸術音楽のポリティクスとポエティクス

この本では、そういうものだ、という感じに概念の出典などは示されておらず、気にはなっていたのだが、そのうち大久保賢までもが、どこで覚えたのか「日本語の基本単位はモーラだ」と例によって断言口調で書くようになり、いつの間にそんなことが決まったんじゃい、と不審が募っていた。

ラテン語の詩の音韻論に出てくる mŏra という概念(長い母音は短い母音の2倍と考えるらしい)を、日本語の音声論に転用したもので、それまで漠然と「拍」などと呼ばれていたものを説明するのに使うらしい。上の事典(ジュンク堂で立ち読みした)によると、服部四郎が、この用語を広めるのに貢献したようだ。

一般には、ウィキペディアのモーラの説明にあるように、モーラのある言語(ラテン語や日本語)と、モーラのない言語がある、と見るようだが、あらゆる言語に潜在的にモーラがある、とする、いわば「モーラ原理主義」の立場もあるらしい。

日本の「うた」を考えるときの土台の土台になるような大事な概念なのだから、音声学の一学説を鵜呑みにして引き写しするのではなく、本当にこの概念を「うた」の議論に使って大丈夫なのか、ちゃんと誰かまとめてほしい。

(日本語の「ん」は独立したモーラになる、等々というのがおそらく大事なポイントで、筑前琵琶のギニャールさんも、水曜にNHK大阪のニュースで取材を受けていたときに日本語の「ん」は難しいと言っていたが……。)