ユークリッド『原論』とは何か―二千年読みつがれた数学の古典 (岩波科学ライブラリー)
- 作者: 斎藤憲
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/09/17
- メディア: 単行本
- クリック: 6回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
「原論」はプラトンよりもアリストテレスよりもあとにまとめられた書物なのだということを今頃になって知る。
ギリシャ古典の翻訳の周辺を順番に読んだり調べたりしているのは、韻文とか歴史語りとか戯曲とか対話篇とか、その後の手本になっていく色々な文体・話法の成り立ちを確認しておきたいと思ったからなのですが、数学の論証のつっけんどんな話法は、ギリシャでも割合あとになって整備された、ということのようですね。
(最近の説では、ピュタゴラス派は、まだ証明を重視してなかっただろうと見るようだ。)
斎藤先生の本は「原論」の話法や図がどうしてこうなのか、の説明に力点があって、まさに知りたいことを次々教えてくれる。
成立年代すら正確には特定できないのだから、確実なことは言えないにしても、
数学の論証・証明を整備した本が編纂されたのはソフィストの弁論に刺激を受けたのだろう、ただし、出来上がった文体はソフィスト風ではなく、反対に、哲学に踏み込んで足下をすくわれない細心の配慮がなされていると見ればいいんじゃないか、とのこと。
石ころが川の流れに磨かれて、とりつくしまのない流線型になっちゃったような感じでしょうか。
ウィーン世紀末のドロドロと淀んだような文化のなかから論理実証主義が出てきたのを連想させて、ややモダニズムに引き寄せた推測という感じはしますが、ワアワアガアガアと周囲がやかましいときに、シュッとした話法が出口になる、というのは、経験的に納得できてしまいそうではある。(もちろん、そういう推論を支える傍証は色々挙げられておりますが、あとがきでかなり強い口調で学会のガチャガチャした風潮を批判していらっしゃるので、斎藤せんせは、心底そういうのが嫌なんでしょうね。)