古い地図

メディアが旧態依然なのは古い地図を使い続けるのに似ている。

三丁目の山田さんは半年前に引っ越して、今は佐藤さんが住んでいるのに、今も連日、古い地図を手にした東京者が山田さんに会いにひっきりなしに訪ねてくる。

隣近所の人たちは、「山田さんはもういませんよ」と親切心で教えてあげるのだが、彼らの頭のなかには、「○○の地元民はうそつきだから信じるな」と擦り込まれているのか何なのか聞く耳を持たず、その家の住人を「山田さん」として扱って、東京へ戻ると「昨日山田さんに会ったんだけど、すっかり様子が変わっちゃってねえ」などとトボけたことを言っているらしい。

しかも、東京者にこびを売りたい観光業者が彼らに調子を合わせるものだから、国土地理院発行の権威があるらしい地図では、三丁目の住人はいつまでたっても「山田さん」だ。

カフカの不条理か筒井康隆のスラップスティックか、という話だが、でも、よくある光景ではあるよね。

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そしてしかし、80年頃のことを思い出してみると、クラシック音楽について書いた日本語の本には、吉田秀和よりさらに古い明治生まれのお爺さんが書いたような文章を音楽之友社あたりが普通に売っていたわけだから(名曲解説全集なる書物では今も堀内敬三や門馬直美が現役である)、何も現在が特別に悲惨なわけではなく、いつの時代でも、権威だか惰性だかによりかかっているとロクなことはない、ということに過ぎないわけだが。

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関西音楽新聞は、何がどうなったのか知らないが、この4月頃から、体裁は同じままで、ピンポイントに面白い公演を拾っていたりして、秘かにパワーアップしている。

(あの人が死んで、風通しが良くなったのかな。)