ブック・ガイド「ファシズム」

「ファシズム」という言葉は、意味が広すぎるマジックワードになってしまっており、ほぼ、誰でも恣意的に自分の気に入らないものにこのレッテルを貼ることができそうな現状なので、意味を失っている、という趣旨を小谷野敦が書いていたと記憶する。

政治や人間関係、集団のあり方を語る論争では、当面、何かを「ファシズム」と呼ぶのは思考停止と同義である。

「ファシズムの再発防止」を政治目標にすると道を誤る。

歴史記述においては、例えばシヴェルブシュの言う「三つの新体制 Three New Deals」のように、マジックワードとしてのファシズムの語を回避して20世紀中葉を語る有力な試みが近年提案されつつあるようだ。中川右介『悪の出世学』は、「ヒト」の側から同じ領域に迫る。

そして東浩紀がショッピングモールに着目するのは、おそらく、現在を「ファシズムの再来」と語ってしまう思考停止を回避する試みだろう。

従来「人文学」と呼び習わされてきた分野では、在野の論考の貢献度が相変わらず高いことを再認識する上でも、この3冊を広くお薦めしたい。

三つの新体制――ファシズム、ナチズム、ニューディール

三つの新体制――ファシズム、ナチズム、ニューディール

悪の出世学 ヒトラー・スターリン・毛沢東 (幻冬舎新書)

悪の出世学 ヒトラー・スターリン・毛沢東 (幻冬舎新書)