メディア掲載レビューほか
2015年11月28日、東京藝術大学の奏楽堂に高らかに鳴り響いた日本初のカンタータ“交聲曲「海道東征」”のライヴ録音。1940年(昭和15年)の初演から70年以上を経た今回、オーケストラ、合唱、児童合唱、総勢260人という大編成の演奏陣が「海道東征」を壮大なイメージで甦らせる。信時潔の隠れたる名曲「我国と音楽との関係を思ひて」「絃楽四部合奏」も併録。東京藝術大学音楽学部が総力を結集して実現させた一大プロジェクト。 (C)RS
NAXOSから出ている「海道東征」のAmazonの商品詳細ページに、こういう文章が出ている。「日本初のカンタータ」という文言に、そんなはずはないだろう、と驚いたのだが、この「メディア掲載レビュー」は、どこに掲載された誰の文章なのか?
東京藝大スタッフや片山杜秀による詳しい解説が付いているらしいので、CDを早速取り寄せる。
もちろん、片山杜秀が、「日本初」などというアホなことを書くはずはない。実際、そんなことは書かれていない。
だが、それに先立つ、大角欣矢の「曲目解説」に次の文言がある。
この後期ロマン派の交響曲にも匹敵する規模を持つ「日本初の一大カンタータ」(畑中良輔)は、戦前に日本人が作曲した最も大規模な作品に属するだけでなく、……
ここには、人文科学の「論文めいた雑文」のテクニックが駆使されている。
「日本初の一大カンタータ」という文言は、文中で、そのあとも補足や注釈なしに投げ出されているので、おそらく上記「レビュー」は、「東京藝術大学音楽学部楽理科教授」の解説なのだからそうなのであろう、と鵜呑みにして、そのまま使ったのだろう。
大角の文は、これが畑中良輔の言い回しの引用であることがわかるように「」で括ってあるので、大角に苦情を言っても、おそらく、それは「論文・引用の作法をしらないバカの勘違い」と逃げられて終わるだろう。
しかし、じゃあ、畑中良輔は、どこにこの文言を書いたのか。
出典を明記せず、畑中の(勢いで書いた放言に近い誇張の疑いがある)文言を引用して、責任逃れをするのは、受け狙いの無責任な振る舞いだと思う。
こういうことをするから、「人文系大学教授」の信用が落ちる。
信時潔:交聲曲「海道東征」/我国と音楽との関係を思ひて/絃楽四部合奏[SACD-Hybrid]
- アーティスト: 菅英三子,平松英子,寺谷千枝子,永井和子,永田峰雄,甲斐栄次郎,福島明也,信時潔,湯浅卓雄,東京藝大シンフォニーオーケストラ,東京藝術大学音楽学部声楽科学生,NHK東京児童合唱団
- 出版社/メーカー: ナクソス・ジャパン
- 発売日: 2016/04/13
- メディア: CD
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私は、「海道東征」という作品を昨年大阪で聴いて、後期ロマン派風の誇大妄想気味のスケールの大きさよりも、むしろ、音楽取調掛以来の「日本の近代唱歌」の系譜の最終進化形で、和語を洋楽様式でいかに朗詠するか、手堅くきめ細やかな作曲だと思った。「日本初」というような事大主義の語彙とは無縁な作品だと思う。引用のテクニックを駆使してまで、そのような語彙を入れようとするのは、いったいどういう了見なのか、と思う。