radiationの20世紀

アインシュタインの父はミュンヘンやミラノにアーク灯を敷設する事業を請け負ったりしていた人で、アインシュタインも、自分がやっていることが「発見」ではなく「発明」と呼ばれることを望んだらしい。だとしたら、アインシュタインという人物を、科学史における「第三の革命」という文脈ではなく、エジソンやグラハム・ベルのような「発明家」の文脈、文化としての技術の文脈に置く視点があり得るかもしれない。

時空の相対性というマクロな世界観、不確定性というミクロな世界観をメタファーとして輸入する、という形で20世紀の人文社会科学は自然科学をキャッチアップしようとしたところがあるように思うけれど、文化としての技術という視点で事態を捉え直そうとするときには、相対性理論よりも、むしろ、放射 radiation に関するアインシュタインの貢献に着目したほうがいいのかもしれない。(物理現象における不可逆性やエントロピーという概念は、20世紀初頭の段階では寺田寅彦から教えられて夏目漱石も関心を抱くほど「衝撃的」であったようだし、1921年のノーベル物理学賞は、相対性理論ではなく光電効果に関する業績に対して与えられている。)

音響再生産という20世紀の「鼓膜」や、遠隔視という20世紀の「網膜」は、しばしば「ネットワーク」という枠組で語られているけれど、そこで取り扱われているのは、実はむしろ音波や光の放射 radiation だったのではないか。放射を「網」として制御しようとするところに、これらの技術の virtuality が発生した、という風に見ることができはしまいか? 散布 broadcast を人文社会科学が取り扱うときの困難は、相対性や不確定性のメタファーを「知の欺瞞」風に借りてくるのではなく、radiation の層へ降りないと活路が開けなかったりするのではなかろうか?

アップルのCMで舌をペロンと出していたオチャメなお爺ちゃんは、相対性の人として一般化(知の共有財産化)したり、原子爆弾の罪悪感に苛まれた人として特殊化(文学化)するのではない仕方で読み直すのが面白そうだ。

アインシュタイン論文選: 「奇跡の年」の5論文 (ちくま学芸文庫)

アインシュタイン論文選: 「奇跡の年」の5論文 (ちくま学芸文庫)

  • 作者: アルベルトアインシュタイン,ジョンスタチェル,Albert Einstein,John Stachel,青木薫
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2011/09/07
  • メディア: 文庫
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原論文で学ぶアインシュタインの相対性理論 (ちくま学芸文庫)

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