読者論とテクスト史観

前田愛がよくわからない。

少し上の世代がよく名前を出した(浅田彰『逃走論』のブックガイドにも紹介されていた)けれど、気がついたら本人が早世して、主な著作は絶版になって古書などで入手するしかなくなっていた。

80年代の著作が文庫になっていて、国文学テクスト派の先駆者、「未完成」交響曲で死後の名声を得たシューベルトのような扱いに見えるのだが、「前田の著作は、西欧とは異なる日本独自、日本語固有のテクスト論のバイブルである」という小森陽一の見立ては、「テクスト史観」に引き付けすぎではないのだろうか? まるで革命の道半ばで倒れた同志への弔辞のようだ。

文学テクスト入門 (ちくま学芸文庫)

文学テクスト入門 (ちくま学芸文庫)

『近代読者の成立』を淡々と再版してくれたらいいのに。