「音楽の国ドイツ」のメロディー論

ダールハウスの著作のうち、杉橋陽一が訳して最初に日本語になったのは Melodielehre という小さな書物だ。

シュッツのモノディー、モーツァルトの魔笛タミーノの絵姿のアリア、ワーグナーのラインの黄金のローゲの語りの3つを分析しており、議論は面白いのだけれど、なんだか地味な選曲だなあと思ったものだった。

でも、ずっと気になっていて、最近ようやくこれらの事例を大事なポイントとして授業に組み込むことができるようになった。そして30年越しで使いこなせるようになると、なるほどここでのダールハウスの議論は、メロディーにおけるドイツ・ナショナリズムを考えるときの急所を押さえていたのだなあと思う。

「音楽の国ドイツ」三部作について、私は、劇場の扱いが弱いと思っているけれど、劇場共同体を視野に入れないとみえてこないと思われる「ドイツのメロディー」という観念を捉えようとするときに、あの大著は役に立つのだろうか。堀朋平だったら、このあたりの話を語れるのだろうか。(広瀬大介は語れるんじゃないかという気がするが。)