小林秀雄、バイロイトへ行く

小林秀雄「モオツァルト」の初出は1946年の創元で、新潮文庫では『モオツァルト・無常ということ』として戦中のエッセイとまとめて収録されているけれど、角川文庫の『モオツァルト』(なぜか私が最初に読んだのはこっちだった)には、音楽関係のエッセイということで「バイロイトにて」が一緒に入っている。

だから、(冷静に考えればバイロイト詣でをするのは戦後随分たってからだろうとわかりそうなものだが)道頓堀で悲しみが疾走したその足で、どういう魔法を使ったのか、次の瞬間にはワーグナーの聖地のホテルで買い求めたオペラ台本を読んでいるイメージがあったのだけれど、「バイロイトにて」は1964年の芸術新潮が初出で、ビジュアル化されたB5判の紙面には、劇場をバックに立つ著者の姿や舞台写真が大きく掲載されている。カメラマンや記者(このクラスだったら編集長か?)が同行する大名旅行であったらしき雰囲気なのでした。

小林秀雄はA5判[追記: 四六判]の頃から芸術新潮で美術関係の連載を続けているけれど、戦後のエッセイ類は、それぞれどういう誌面にどういう扱いで掲載されていたのだろう。

全集を通読する「作家論」とは違うスタンスで近代文学を捉え直す、というのであれば、夏目漱石を新聞小説として読むように、小林秀雄を様々な雑誌のエッセイストとして読んでもいいわけですよね。たぶん。