歌と祈り

「海道東征」の解説で第7曲を「船漕ぎ歌」と書いたのは間違いで、あれは行軍の歌でした。申し訳ありませんでした。

ただ、「海ゆかば」も含めて、信時潔が書いたうたは、いわゆる軍歌調の勇ましさとは違うところがあるとは思います。それは、広義の「軍歌」(戦時の歌)に「軍歌調」とは違うもの(曲調だけではなく歌われ方/聴かれ方を含めて)がある/あった、ということなのでしょう。

「ゴジラ」には女学生が講堂で歌う場面がありますが、むしろ、海道東征の合唱の厳粛さは、それに近い何かのような気がします。

私は未見ですが「シン・ゴジラ」に“歌う国民"は登場したのか。3.11以後の映画と言うのであれば、「花は花は……」がNHKで連日放送される現象が何だったのか、ということへの解釈・考察が入っていてもいい気がするのですが、それが庵野作品にあったのかどうか。(エヴァは主題歌やエンディングのカヴァー曲が、そういうのとは別種のアニメ主題歌の文脈でそれなりに注目されていた記憶がありますが……。)初代ゴジラの女学生の歌を介して、信時潔のうたは、そういう近い過去の現象と、同じではないにしても比較して考えるのがいいんじゃないかと、私には思われます。

聴覚文化ということを言うのであれば、NHKが災禍のあとで担った「聴覚行政」みたいなものと、重なるけれどもズレる領域を含むかもしれない「聴覚的で歌謡的な公共性」みたいな何かを考えたほうがいいのかもしれませんね。そういう領域を、第九vs森の歌、というような合唱の55年体制のままにしておいていいのかどうか。