ドイツ論のアップデート

浅田彰が父親からトーマス・マンのことを繰り返し聞かされたと回想しているが、没落したとされる教養主義やロマン主義へのノスタルジーとは違うしかたでドイツの文学を再インストールしないと不便な局面がこれから色々顕在化するかもしれない。ナショナリズム(「音楽の国」)とかロマン主義(シューベルトのオデッセイ)とか帝国とナチズム(リヒャルト・シュトラウス)とか言わないと本の企画が通らない事情があるのだろうけれど、そういうデカい話だけをドイツから輸入するのでは何かと不便だ。ベンツは日本の道路事情に合わない車のような気がするし(笑)。

ゲンロン4 現代日本の批評III

ゲンロン4 現代日本の批評III

  • 作者: 東浩紀,梅沢和木,浅田彰,山口二郎,津田大介,佐々木敦,市川真人,大澤聡,さやわか,杉田俊介,五野井郁夫,ジョ・ヨンイル,プラープダー・ユン,福冨渉,黒瀬陽平,速水健朗,井出明,ハンス・ベルティング,安天,辻田真佐憲,海猫沢めろん,東山翔
  • 出版社/メーカー: 株式会社ゲンロン
  • 発売日: 2016/12/07
  • メディア: 単行本
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……というようなことを考えたのは、シラーのバラードが一方で太宰のメロスのモデルになったり、他方で、どうやらポーランドの詩人たちが民俗叙事詩をアップデートして、ショパンを触発するロマンティックな作品を生み出すきっかけであったらしいことを知り、「語り物」の近代を考えるときにドイツは鍵を握っているらしいとわかったからなのだが。

ドイツ・リートの周辺には、旧制高校風ではなくアプローチできる鉱脈がまだ色々ありそうだ。

(ワーグナーだって、ドレスデンでの上演を想定したタンホイザーとローエングリンはいかにも「影響の不安」を言いたくなる形でウェーバーのロマンティック・オペラをアップデートしているが、構想が遍歴時代に遡るオランダ人はハイネで、いわば、バラード・オペラですよね。)