ラテン語との対比、ギリシャ文芸の復興といったトピックを視野に入れて中世からバロックの俗語文学をたどろうとしたら、ドイツ文学を単体で語るのは難しそうですね。フランク王国が東西に分かれる前は今で言うドイツとフランスが一体だったのだし、その後もフランス語文学のほうが色々な試みがあるみたいだし、もっと言えば、ラテン語との関係においてもギリシャ古典の復興においても、本当はイタリアが本命だろうと思う。
マイスタージンガーを近世の代表とみなしてドイツ文学史を語るのは、あまりにも近代ナショナリズム寄りに歴史認識が歪んでいるんじゃないかという気がします。
一方、ラテン語文献に(ドイツの)ナショナリズムの起源を求める「音楽の国」論は、英語文献だけで日本文学史を綴ろうとするのに似ているかもしれない。
極端なローカリズム(マイスタージンガー礼賛=文学者のドイツ観)と極端なグローバリズム(ラテン語文献への信頼=哲学者のドイツ観)をかけあわせたところに「ドイツ文化」を設定するのは、もういいかげん、やめたほうが賢明だと思う。そういう態度は、除霊されてしかるべき「ワーグナーの呪い」(ナショナルであると同時にグローバルな総合芸術をワーグナーが達成したとする党派的な思い込み)に囚われている。
はじめて学ぶフランス文学史 (シリーズ・はじめて学ぶ文学史)
- 作者: 横山安由美,朝比奈美知子
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
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