学問の vindex - 身柄の引き受け

帰納という方法の正当化 justification を言うときに、妥当化 validation と擁護 vindication を区別したほうがいい、という話が最後に出てくるが、擁護 vindication の語は債務不履行時の弁済者を指すラテン語 vindex が語源であるらしい。身元保証人、身柄の引き受け人だ。

査読が典型的だが、validation (デジタル証明書のチェックとかでも出てくる言葉ですね)をいくら厳密にやっても、それだけでは justify できない性質の事柄がある、というわけだが、口先だけで裏付けなし、という姿勢では vindex にならない。アカデミアはボランティア・ベースの性善説のユートピアだと言われるが、大学教員という名のサラリーマンの片手間で他人の身元の引き受けまで手が回らない状態になり、vindex のかわりに「コネ/つながり」(身内意識)でやりくりするようになったあたりで、もはやアカデミアの土台が崩れて、そこは自らの証を立てること justification ができる場ではなくなっているということになりそうだ。

(たとえば先の佐村河内騒動で、鈴木淳史はゴーストライター新垣を vindicate して、吉松隆は勇敢に佐村河内を vindicate したが、おっとり刀の増田聡は事態を validate することしかできなかった、彼はいつもそうだ、「学会の打ち上げで新垣さんと話をしたら誠実そうな人だった」という感想も validation から一歩も踏み出していない、なにが「オトコ/九州男児」であることか、等々という風にこれらの言葉を使えばいいのだと思う。)

科学哲学の冒険―サイエンスの目的と方法をさぐる (NHKブックス)

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