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教会の祈祷・宮廷の儀礼・市民の娯楽

西洋音楽史の概略を限られた講義時間で一覧しようとすると、美術の場合と違ってルネサンスは独立した時代ではなく、中世の「オマケ」(和声に3度が加わっただけ)、ロココ・古典派はバロックから宮廷の趣味が変化しただけの「宮廷音楽後期」程度の扱いで十分な気がしてくる。そして20世紀の前衛・実験が19世紀の市民たちの音楽(=いわゆる「クラシック音楽」)の「分析・編集・反復」で成り立っていると言えるとしたら、西欧芸術音楽の1000年の歴史を、1. 教会音楽(前期:中世、後期:ルネサンス)、2. 宮廷音楽(前期:バロック、後期:ロココ)、3. 市民音楽(前期:ロマン主義とナショナリズム、後期:前衛的実験主義と大衆消費)という見通しのいい三分割にまとめることができそうだ(シラバスが求められる年度末)。

ルネサンスは中世よりはるかに短く、ロココはバロックより短い。そして短いのに華々しい。20世紀が短く、にもかかわらず華々しいのは、また同じことが繰り返されただけなのかもしれない。

追記:

(1) ヨーロッパ亜大陸で「声の宗教」を信奉する部族が、自らの宗教上の聖地と思い定めたエルサレムに侵攻してイスラムと接触したことで、ラテン語文化に先行するギリシャ文字の文化をアラビア文字経由で再発見して、科学と世俗文化に目覚めたのがルネサンス。

(2) 勢いづいた世俗君主が「声の宗教」を押さえ込んで専制化して、アジアや新大陸に進出したのはいいが、知識人たちが人類学的に覚醒して啓蒙思想を唱えるようになるのがロココやウィーン古典派の時代。

(3) 専制君主に代わって、啓蒙された教養市民が議会制で国家を経営して、産業を振興したら、都市に労働者・大衆が流入することになり、文明の形を再編せざるを得なくなったのが20世紀のモダニズム。

ルネサンスと啓蒙とモダニズムは、まるで新しい知が社会を変革したかのように思えるから文化の歴史では輝かしく礼賛されるけれど、その効果は先行する時代状況とワンセットだから、それぞれ、教会が強かった時代の後期、宮廷が強かった時代の後期、市民が強かった時代の後期、という扱いでいいように思う。