リバーダンスのヘクサメーター

楽譜をはじめて見たのだが、デュオのところは 6/8 と 4/4 が交替する変拍子。

-uu -uu | -u -u -u -u | -uu -uu | -u -u -u -u | -uu -uu | -u -u -u -u |

そしてフレーズの最後だけ 6/8 + 6/8 + 4/8 に変わって、

-uu -uu | -uu -uu | -u -u |

つかめそうでつかめないすばしこいリズムになっている。

要するに、2拍もしくは3拍のユニットが6つ並ぶ6韻脚ヘクサメーター風のパターンを、3 3 2 2 2 2 と実装するか、3 3 3 3 2 2 と実装するかの違いですね。

3 3 2 2 2 2
-uu -uu -u -u -u -u
3 3 2 2 2 2
-uu -uu -u -u -u -u
3 3 2 2 2 2
-uu -uu -u -u -u -u
3 3 3 3 2 2
-uu -uu -uu -uu -u -u

小節 tactus を分割する西欧の中世以来の数比的なリズム把握ではなく、小さなユニットをシリアルにつなげていく加算的なリズム把握だ。

一方、ラストの群舞は、同じメロディだがユニットがひとつ少ない5韻脚で、12/8 の普通のヘミオラでとしてオーディエンスがフォービート風にノルことができる(=加算的にも数比的にも聴くことができる)。

-uu -uu -u -u -u | -uu -uu -u -u -u | ... = 3 3 2 2 2, 3 3 2 2 2, ...

-uu -uu -u -u -u = -uu -uu -u- u-u

シンプルだけれども効果的なアイデアだと思う。作曲はビル・ウィーラン。


Eurovision 1994 Interval Act - Riverdance

大栗裕の早口でまくしたてる大阪言葉風の変拍子をちょっと思い出す(「大阪俗謡による幻想曲」の地車囃子に萌芽があるけれど、本格的にこれを使うのは70年代の「神話」以後)。フォークダンスをこういう風に近代化するアイデアは、技法としては、モードを使って民族性を演出するのと同じくらい古い芸術音楽の定番ではあるが、数比リズムと加算リズムという概念枠を導入すると、比較文化論っぽい話に展開できるかもしれない。

(色々な演奏を聴いたけれど、現役指揮者で大栗裕の加算的なリズムをつかんでいるのは井上道義だけのような気がする。ラテン系の音楽に取り組んでいると、加算的なリズムへの適性が高くなるのかもしれない。ドビュッシーやラヴェル、ストラヴィンスキーは加算的なリズムをしばしば秘かに使う人たちで、メシアンはそのことに気付いて不可逆リズムを考案したわけだが……。バーンスタインがプエルトリコ移民に関心を寄せて作曲したウェストサイド・ストーリーのシンフォニック・ダンスにも加算リズムの素敵なスケルツォが出てきますね。以前、宮澤淳一さんが指摘していたグレン・グールドのBPMのトリックも、西欧古典音楽の tactus を加算的にフラット化していると言えそうだ。)