獣の宅配

吹田ジャンクションの近くで戦闘力の低いわたくし好みの個体を発見した。

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どうやら昨日来、「ちゅうかん」(大阪府道2号大阪中央環状線)や「がいしゅう」(同1号万博外周道路)、「しんみどう」(新御堂筋国道423号)とか「いないち」(同171号)とか、あるいは名神とか、自動車を運転しない私がタクシーの運転手さんに道順を説明するとき以外には使わない語彙で名指されるような、北摂の電車で行けないゾーンに水棲獣が頻出しているらしい。

(私がcp33に遭遇したのは「吹田インター」近くのイオンモールにいたからで、各銀行のATMがずらりと並んで年度の変わり目の諸々には駅前よりショッピングモールのほうが断然便利、というあたりが、いかにも、「ファスト風土」な郊外、ではある。)

ラプラスが「山のソース」「陸のソース」に出る、という言い方になるようですが、単に「山」「陸」ではないかもしれない。

昨年の夏場に南港や天保山へ自家用車で繰り出す人たちの「路駐」が問題になって、自治体や識者を交えた対策が話し合われたりもしたようだが、それじゃあ、そこまでしてラプラスを追い求める人たちがどこに住んでいるのか。ゲームの胴元がユーザの行動パターンを解析すれば、たぶん、傾向がわかるはずで、このイベントは、だったらそれぞれのユーザの自宅へラプラスを直接届けよう、という、いわば「モンスターの宅配」みたいな感じがします。

欲望を見透かされている、北摂民の欲望が陸地の水棲獣というシンボル/アイコンとして露呈している、ということでしょうか?

(「東北のラプラス」「熊本のカビゴン」の復興支援イベントで地元以外からわざわざ遠征したユーザがどれくらいいて、彼らは日頃どこでプレイしているか、というのも、有力な参考資料として使えそうだし、「みずイベント」の狙い澄ましたラプラスの出方は、いわゆるビッグデータの解析を踏まえていそうな気がします。「○○ギラス」といういかにもな名前の陸の怪獣とも、出現パターンは違っているようですし。)

ナイアンティックは「進化アイテム」を胴元が絶対負けない極悪ルーレットみたいなカジノ仕様で引っ張るのをようやく止めたが(ルーレットをエンドレスに回転させられるという理由で錦糸町や北新地の歓楽街にユーザが詰めかけるのは、いかにも怪しいことでした)、郊外でも、ラブホテルとボーリング場という高速道路のインターチェンジの昭和な風景は廃れつつあるようだ。名神茨木インターの周囲はいくつかのラブホが廃業して、巨大ボーリング場 Big Box は取り壊されてマンションになるらしい。たぶん交通の便を考えての立地だったと思われるパナソニックと東芝の家電工場もなくなった。(国道171号沿いには宅配の配送センターが並んで、パナソニックの跡地にAmazonが来るらしい。時代の変化ですね。)

吹田インターからJR茨木駅までの地域も、茨木駅側はJTの跡地がイオンモール、サッポロビールの跡地が立命館大学になったが、ラプラスのいるあたりまで歩いたおかげで、モノレール宇野辺駅の周辺には、今も工場がいくつかあるのがわかった。

少子化をものともしない住宅地の公園にカワイイ系が出て、走り屋の方々(今もこのあたりは週末に「族」のみなさんがうなりをあげて爆走しております)には巨大獣をお届けする、ということのようですね。(北関東との比較を展開するために、立命館の千葉雅也くんは、北摂に転居するのも、アリじゃないかしら。北関東風の任侠はいないが、仮名手本忠臣蔵山崎街道の舞台がこのあたりです。)

一口に北摂といっても、阪急電車が郊外の神社仏閣や湯治場と都心を結んだ昭和前期の開発と、道路を縦横に張り巡らして、集合住宅を作り、企業・工場を誘致した昭和後期の開発では、当然ながら風景・環境がまったく違っていて、前者の公園は世代交代を経ていまも賑わう一方で、後者の地域は、拡張現実を被せて巨大怪獣が宅配されている、ということだと思います。

昭和前期の私鉄沿線開発は鉄道を降りた利用者が駅周辺を歩くのが前提で、今では阪急電車の主要駅が高架式に変わっているけれど、昭和の頃は茨木市駅や高槻市駅も、今の神戸線の各駅と同じように住宅に囲まれて、街中にフラットに埋めこまれていましたよね。阪大(石橋の旧大阪高校)や関大など、北摂の学校はそんな阪急沿線にあるものだった。

中之島にあった阪大の医学部と付属病院が万博以後のインフラを活用するべく千里丘陵に移転して、立命館の経済経営系学部が茨木の工場跡地に入るのは、「ファスト風土」に「族」が爆走できそうな地域のジェントリフィケーションなわけで、大学の在り方として新しいのかもしれない。

(豊中の例の国有地は、そんな21世紀型の郊外都市再開発からも外れてしまう事情がありそうな場所だから、それで何かグズグズとくすぶってしまうんでしょうね。服部や曾根は拡張現実的にも色々面白いことが起きるけれど、庄内は水路を埋めた堤防沿いにミニリュウがときどき出るくらいなんですよね。)

そういえば、大学時代、サークルの同期生が何度か家まで送ってくれたが、阪大待兼山キャンパスから「ちゅうかん」を走って「がいしゅう」に入り、吹田キャンパスを横目に見ながら北上して「いないち」へ、というコースは、車好きにはそれなりに楽しい夜のドライブだったのかもしれない。(「せんちゅう」(千里中央)から「しんみどう」を使うより、我が家には「がいしゅう」コースがいいらしい。)今も昔も、私は車がどこをどう走っているのか、地図と風景がまったくリンクしないのだが、万博公園のあたりは、窓の外の景色が近未来都市っぽい雰囲気だったりしますよね。