出力を発信元に還流させない

最近のイベント広報では、エコーチェンバーなSNSを利用して「お客様の声」をリツイートやいいねでフォローするのが流行っているが、私はあれがどうにも好きになれない。

オーディオ・音響設計で言えば、スピーカーからの出力や会場内の反響をふたたびマイクで拾って、しかるべく処理して再出力する感じがする。そういう手法を音響技術のほうで何と呼ぶのか、ちょっと検索しただけではわからなかったのだが、人工的すぎて、クラシック音楽のような生音のライブには似つかわしくない/潔くない印象を抱いてしまう。私の感性と発想が古すぎるのかもしれないが。

そういう風に発信元にエコーを還流させる回路とは別に、バーンスタインのミサは、本格的に上演すると、あまりに情報量が多すぎて、1回や2回聴いただけでは何がどうなっているのか、いまだに印象が混沌としている。メモと記憶を頼りに、少しずつ解きほぐしている今日この頃である。

で、ひとつだけ、あまりにも多すぎるポイントに埋もれてしまいそうなので書いておくと、

「The mass is ended, go in peace.」というスコア末尾の記載を今回の上演では指揮の井上道義が自らの発話して、これがこの公演で最後に観客が耳にする「声/音」になったわけだが、初日にこれを聴いた時に、「ああ、グラントリノだなあ」と思った。

(指揮者が公演の「最後の一言」をピンマイクで発話する、というのを、以前、別のプロダクションでも目撃した記憶があるのだが、あれは何だったか思い出せない。それも井上道義だったか、佐渡裕か大植英次だったか、あるいはもっと別の誰かだったか……。指揮者はずっと黙って公演をコントロールしているから、最後に一言、というのは、声のトーンとかマイクの調整とか、やってみないとどういうテンションになるか予想できなくて、かなり難しいと思う。)