ドイツのカンタータ交響曲の曲目解説

1994年末に当時の音楽監督井上道義が指揮した京響の第九の曲目解説が、わたくしの原稿料をいただくプロオケ曲目解説の初仕事でした。まだ大学院生で非常勤の仕事をいただいた最初の年でもあり、京都人の岡田暁生や伊東信宏より先に京響から声をかけていただいたのは、ささやかに誇らしかったものです。

(いちおう、この仕事が翌年から京都新聞で批評を書くことにつながった、という流れになります。)

その後、井上道義は大阪フィルの首席指揮者になったわけだが、大阪フィルでは、初代音楽監督の朝比奈隆が亡くなった当日および翌日2001年12月29、30日の若杉弘が指揮した「第九の夕べ」の解説を、(もちろんそういう特別な日になるとは思うことなく)書かせていただく巡り合わせになった。

朝比奈と井上の間をつなぐ大植英次は第九を恒例行事にするのを嫌って、特別な意味のあるときしか第九を振らなかったが、2011年末のシンフォニーホールでの第九は、2011/12年の大植英次音楽監督ラストイヤーの流れで第九の解説も書かせていただいたので、結果的に、朝比奈が振れなかった死の年、大植のラストイヤー(同時に朝比奈隆没後10年でNHK-FMの生中継つき)、そして道義の大フィル指揮者就任前、という微妙な距離感で、3人の大フィル指揮者の第九演奏会の解説を書いたことになるようです。

ただし、大植英次のカンタータ交響曲というと、彼がフェスティバルホール改修中の2010年にマーラーの4番、2011年にマーラーの3番を新ホールへのカウントダウンとして「大阪国際フェスティバル」の看板で指揮した演奏会の解説を書いたことのほうが、私としては思い入れが強い。

京響でも大阪フィルでも、どういうわけか、ブルックナーの解説は回ってくるのにマーラーを解説する機会はこれまであまりない。特にマーラーの3番は、我ながらうまく書けたと思っております。

で、2013年には、新しいフェスティバルホールができて、国際フェスティバルとして大植英次・大阪フィルがマーラーの2番を演奏したわけだが、この演奏会の解説は回ってこなかった。

こっちは、2番まで書いてカウントダウンが完結すると思って楽しみにしていたのだが、どうやら、それまでの経緯を知らない朝日新聞東京本社が国際フェスを仕切ることになって、東京本社もしくはその下請けの編集プロがプログラムを作ったらしかった。

大きな会社にありがちな気の利かないやり方だと当時随分を腹を立てたし、この演奏会は、直前まで本番を聴くことができるかどうかすらよくわからない状態で、本当にドタバタしていた。

以来、私は、新体制の大阪国際フェスティバルの運営を信用していないし、この音楽祭は許せん!と思って今日に至っております。

ということで、わたくしは、気の利かない朝日新聞東京本社のせいで、いまだに、ドイツのカンタータ交響曲の要の位置を占めるマーラー「復活」の解説を書く機会がないまま今日に至っておりますが、

「第九」については、この年末の尾高忠明第三代音楽監督就任プレ企画とも言えそうな大阪フィル恒例「第9の夕べ」に寄稿させていただくべく準備中でございます。

ヘンデル「メサイア」からハイドン「天地創造」そしてベートーヴェン「第九」というカンタータ交響曲誕生の経緯については、大阪音大の授業で昨年から何度かお話する機会があって、メンデルスゾーン「讃歌」についても同じく音大の授業で今年取り上げたので、あとは、マーラー「復活」の位置を見定めれば、ほぼ、ドイツのカンタータ交響曲の系譜を押さえたことになると思いますが、さてどうなることやら。

カンタータ交響曲という祝祭的なジャンルは、こっちから無理矢理売り込んで書く、というのは違う気がしますので、いつか「機が熟する」ことになればいいけれども、先のことはわからないですからね。

(ちなみに、大日本帝国が誇る国産カンタータ「海道東征」は、産経新聞主催で来年2月に3度目の大阪公演があるようですね。こちらは、ありがたいことに、初回からずっとわたくしの解説を掲載していただいております。)