「クラシックの迷宮 浪速のバルトーク~作曲家・大栗裕の生誕100年」

片山杜秀のNHK-FMの番組でも大栗裕が取り上げられましたね。

NHK大阪でやった歌劇「夫婦善哉」の最後の場が放送されり、放送用音源や「大阪の秋」国際音楽祭での「擣衣」管弦楽版など、こういう機会でなければ電波に乗らなさそうな貴重な音源が放送されていました。

NHKFM 午後9時00分~ 午後10時00分
7月8日 クラシックの迷宮 ▽浪速のバルトーク~作曲家・大栗裕の生誕100年

楽曲
「歌劇“夫婦善哉”第8場から」
大栗裕:作曲
柳吉…松本薫平、蝶子…石橋栄実、辻占い…高津綾子、おちょぼ…端山梨奈、(管弦楽)大阪センチュリー交響楽団、(指揮)本名徹次
(10分06秒)
<※2010年8月5日NHK大阪ホールで収録>

「山(NHKバック音楽集から)」
大栗裕:作曲

(2分13秒)

「行進曲(NHKバック音楽集から)」
大栗裕:作曲

(4分09秒)

「擣衣」
大栗裕:作曲
(ソプラノ)樋本栄、(管弦楽)大阪フィルハーモニー交響楽団、(指揮)朝比奈隆
(18分12秒)
<NO LABEL OP-1211>

「大阪俗謡による幻想曲」
大栗裕:作曲
(演奏)大阪市音楽団、(指揮)朝比奈隆
(12分16秒)
<東芝EMI TOCF-6018>
※「歌劇“夫婦善哉”第8場から」は(原作)織田作之助、(脚色)中沢昭二

ただ、話の内容は片山杜秀がこれまでに書いてきたことからアップデートされていなくて、「大阪俗謡による幻想曲」の作曲を1955年と推定する樋口幸弘の間違いが今回も踏襲されたのは残念なことでした。

「擣衣」は大阪フィルが50周年記念で作成したCDに入っていて、大栗裕の作品のなかではほぼ唯一といってよさそうな「現代音楽祭」向きの作品ですが、成立経緯はやや問題含みです。

声とピアノと鼓、という編成で1959年に大阪の「現代音楽研究所」(上野晃や松下眞一がやっていた)の演奏会で初演され、このときのソプラノも樋本栄。そして「大阪の秋」の松本勝男の解説によると、朝比奈隆の薦めで管弦楽編曲することになったのだけれど、オーケストレーションは大阪フィル打楽器の八田耕治に任せたようです。

スコアにもそのことは書き添えてあり、スコアの筆跡は大栗裕のものではありません。

この作品は、1960年代の「現代音楽祭」向きに体裁を整えられた録音が残ってはいるけれど、1959年というかなり初期(「夫婦善哉」のわずか2年後)の作品だと見るべきかと思います。

また、大阪フィルのCDではひとつのトラックに収まめられていますが、「擣衣」は3曲に分かれています。(1959年初演版は全5曲で、管弦楽編曲されたのは第1、4、5曲。)

それにしても、放送を聴きながら思ったのですが、現在の楽譜出版社には、こうした「現代音楽」を新たに楽譜として出す体力はないでしょうね。初演当時の手書きの譜面を使い続けるしかない。これは大栗裕の場合だけではないでしょうが。