ショパンとサンド

ドラクロワが描いたショパンの肖像とサンドの肖像が、もともとは彼のアトリエから没後発見された一枚の絵で、ピアノを弾くショパンの背後にサンドが寄り添う構図だったらしい。

シルヴィ・ドレーグ=モワン『ノアンのショパンとサンド』(原書1988年)では、ショパンの絵とサンドの絵が、1枚の画布の右側(ショパン)/左側(サンド)であるとの出典注記を添えて掲載されており、

ノアンのショパンとサンド

ノアンのショパンとサンド

  • 作者: シルヴィドレーグ・モワン,Sylvie Delaigue Moins,小坂裕子
  • 出版社/メーカー: 音楽之友社
  • 発売日: 1998/12/10
  • メディア: 単行本
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ジル・サムスン『ショパン』(原著1996年)の場合、(原著のレイアウトは未確認だが)翻訳書では、ショパンとサンドの出会いの経緯を扱う章の本文中にサンド、ショパンそれぞれの肖像を掲載して、二人の出会いを語り終えた章末に、この肖像のためのスケッチを掲載して、今では切り裂かれて失われた原画のありようを推測できるように配慮されている。

ショパン 孤高の創造者 人・作品・イメージ

ショパン 孤高の創造者 人・作品・イメージ

ジル・サムスンは、サンドからショパンへの手紙が失われてしまった経緯を紹介して、二人の関係が「実際はどうであったのか」、どのような手段を講じようとも知り得ない領域が残ることを示唆している。

「ショパンのピアノを聴くサンド」というドラクロワの原画(二人が出会った頃の絵であるらしい)が切り裂かれて失われてしまったことは、サンドとショパンの関係(生前リアルタイムに毀誉褒貶があり、後世には、サンド側に相当不利なバイアスをかけて語られてきた)を象徴するエピソードに思える。

音楽之友社が1992年に出した「ノアンのショパンとサンド」の翻訳では、表紙に、失われたドラクロワの絵の後世の復元が使われているが、原書もこういう装丁だったのだろうか?

「ドラクロワのショパンとサンド」というようなワードで検索すると、すぐにこの後世の復元の画像が出てくるが、Wikipediaを含めて、この復元が誰の手によるもので、いつ公開されたのか、よくわからない。

切り裂かれて今では失われて知り得ない領域がある、というのが肝心なところだと思うのだが、「集合知」は、そういう裂け目に耐えることができないんだなあ、と改めてがっかりする。