仮にイギリスやアメリカの大学からクラシック音楽学者が駆逐されたとしても、大勢に影響はなさそうだから、結局はコップの中の嵐なのではないかと思えてならない『音楽のカルチュラル・スタディーズ』

音楽のカルチュラル・スタディーズ [単行本]

音楽のカルチュラル・スタディーズ [単行本]

  • 作者: マーティン・クレイトン,トレヴァー・ハーバート,リチャード・ミドルトンほか,若尾裕,若尾裕ほか
  • 出版社/メーカー: アルテスパブリッシング
  • 発売日: 2011/02/28
  • メディア: 単行本
  • クリック: 4回
  • この商品を含むブログ (4件) を見る

序文からものすごく威勢がいいわけですが、

本当に「正典」や「大作曲家の音楽史」や「超越的美学」を振りかざすシーラカンスのような大学教授が今もたくさんいるのだとしたら、それは逆に凄いことなんじゃないかと驚きますし、そういう困った爺さんたちと闘うことが大学のポスト争奪戦において一定のメリットがあるから仕掛けたんだろうなあ、この人たちは、と思いながら流し読みました。

(あるいは、大学が音楽家をレジデント・アーチストに迎えたりすることが、金の無駄遣いだと同僚教員から冷ややかな目で見られていたりするのでしょうか。だとしたら、子供をあめ玉でなだめるような、カルスタへのアート・マネジメント的なケアが必要か……。)

文章だけを読んでいると、今にもドイツやイタリアに乗り込んでクラシック音楽に関する資料を焚書坑儒しそうな勢いで、まるで、日本の調査捕鯨船に突撃する反対派みたいですね。^^;;

でも、この作戦は、日本で本当に有効なのだろうか?

大学の過半が保守的な人たちの経営する私学であるような国だったから、こういう学会政治を仕掛けないとポスト配分が動かなかったのかもしれませんが、

外国の研究成果の輸入業をやっている日本の方々は、仕入れ先の事情が変われば自動的に品揃えを変えるはずなので、ほっといてもそのうち国内の潮目は変わるんでしょうし、実際、あっという間に変わっちゃいましたよね。

「若手研究者」(←これ私は使わない言葉ですよ(←とうしろに言い訳を付けたら使っていないことになる、なんていうのは詭弁だと思いますよ、実際にブログにその言葉を書いているんだから))のあの人やこの人が、どういう業績があるのかよくわからないのに社交的に華やかな大学ライフを送ることができているわけですから……。妻と子供(時には複数)を養って、人類の未来にも貢献している。(子供を他人と呼ぶのはそれで気が済むならいいけれど、他人として距離を保っていたはずの存在が長じて自分そっくりになったりするところが人生の機微なんだろうと私は思う。そういう事態に至ってもあくまで責任を取らないのかどうか、そこまで見届けないと何ともいえない。子育てが大変なときの愚痴にも思われ……。)

これ以上露骨に「今はこれですよ」とやると、軽薄なマーケティングであることがバレバレになって、かえってありがたみが薄れちゃうんじゃないでしょうか。それは、せっかくしっかりした本を作ってくれた訳本版元さんにも申し訳ないことになりそう。(日本(主として大阪?)の音楽のカルスタ便乗組は、口先で調子の良いこと言って酒を飲むばっかりで、勉強しないのです。これはもう、そういう連中だと思って遠巻きにするしかないのでしょう。)

あと、「正典」崇拝に疑問を呈するという話ですけれど、音楽のカルチュラル・スタディーズな皆さまは、これを日本にローカライズして、皇室の御神楽や宮内庁の雅楽、天台声明や観世流の能、市川團十郎家の歌舞伎十八番に批判的なメスを入れるのでしょうか?

そこまでおやりになるというなら大したものだと思いますし、

そのときこそ、カルチュラル・スタディーズは高らかに「創られた<日本の心>神話」を斬ったと喝采を浴びるのでしょう。

が、カルチュラル・スタディーズな皆さまがクラシック音楽を揶揄する口ぶりは、とても本物の戦場に耐えうる装備だとは思えなくて、こういうのをお手本にして国内で「闘争」を仕掛けたら、あっという間に玉砕するのではないかと、心配になってしまいます。

若松孝二 初期傑作選 DVD-BOX

若松孝二 初期傑作選 DVD-BOX

今こそカルチュラル・スタディーズで「バラ色の連帯」ですよ、皆さん!(笑)

威張っている奴は気にくわない、というストレスをお持ちの方が読んでスカッと日頃の鬱憤を晴らすライト・ノベル感覚のエンターテインメントなんでしょうね、たぶん日本では。

この分量で3,800円は驚き。アルテス・パブリッシング様に次の面白い本を出していただくためのカンパと思って買う、というのが、よろしいのではないでしょうか。

Love and Peace、21世紀のフラワーチルドレンということで。

なぜ悪人を殺してはいけないのか―反時代的考察

なぜ悪人を殺してはいけないのか―反時代的考察

たまたま一緒に買ったら、最後に、カナダ留学時の当地の大学日本学科の内幕を書いた実録体験記が入っていた。