安田寛『バイエルの謎』

バイエルの謎: 日本文化になったピアノ教則本

バイエルの謎: 日本文化になったピアノ教則本

この本、前半は遅々として状況が開けなくて、読んでいると、(とりわけこの種の本を職業的関心から購入されることになるであろう現役の19世紀ピアノ音楽研究者だったら(←あんな雑な本で芸術選奨新人賞をもらってしまった岡田暁生へのやんわりと強い批判も入っているので要チェック))「先生、そんなことも知らなかったんすか!」とイライラすると思うのですが、後半一気に来ます。最後まで読みましょう。

そして、以下、198頁まで読み進んだ前提でのしょうもない感想。(ネタバレはしていないのでご安心を。)

      • -

で、198頁までの数頁でたどりつくことになる場所についてですが、

たしかにそのあたりは高級住宅街だったと記憶します。貧乏留学生は、一年住んでいる間、シラー通りから角を曲がってそっちへ入っていくなどという大それたことを一度も想像したことすらなかったです。^^;;

中央駅からドームのある川へ降りていく地形や位置関係が、大津の駅から湖畔の巨大ホールへ降りていく感じにそっくりなんですよね。

しかし、こんなローカルな場所が詳細に記述されることになるとは思いませんでした。テレビ番組が一本作れそうなお話ですね。

ただし、このお話は、東洋からやってきたドイツ語を流暢に話す「探偵」が、師範学校の(老?)教授で敬虔なクリスチャンだから成り立っているところがあって、若いタレントをナビゲーターに据えたりすると、台本をよほど工夫しないと本書の味わいが消えてしまいそうですが……。

(そして、安田先生に手を差しのべる、仕事のできる人々の顔ぶれを見ていると、ヨーロッパの音楽の研究は、(演奏のほうもそうなのでしょうが)給費留学生が先方の大教授の元へ数年間滞在して箔を付けて帰ってくる、という悠長なことをやっている余地などどこにもなくなっているのを実感します。

痒いところへ手が届く情報と人のネットワークを作るには、何かを持って帰るというのでなく、現地で色々なことが循環する場に入り込む=「住む」というのでないと無理じゃないか。当時既にそんなことばっかり考えていたのを思い出しました。

その頃から、私は研究者より、むしろ図書館やアーカイヴの司書・職員の方々に憧れていたような気がします。)