大栗裕の没後30年コンサート。4月に大阪フィルと吹奏楽のオオサカンの演奏会があって(←こちらはCDになりました)、9月には東京でオーケストラ・ニッポニカが「大阪俗謡による幻想曲」1956年版を取り上げてくださいましたが、今度はマンドリンです。
本日10/14には、(私は行けなかったのですが)大栗裕が教授に就任してから創った京都女子大学マンドリン部が音楽物語「白い馬」を上演。
来月11/10には、帝塚山学園ギターマンドリンクラブOGの皆さんがシンフォニエッタ第1番と音楽物語「三コ」と「ごん狐」を演奏します。
響け!大栗裕マンドリンの世界 〜大栗裕没後30年記念コンサート〜
2012年11月10日(土) 開場13:30 開演14:00 高槻現代劇場中ホール(入場無料) 出演:帝塚山学園ギターマンドリンクラブOG、小西潤子(ソプラノ)、萩原次己(バリトン)ほか
大栗裕のマンドリン作品は約40曲あって、その半数以上がナレーションの入る音楽物語です。1962年に指導していた関西学院大学マンドリンクラブのために作曲した「ごん狐」は2人の独唱、合唱が加わって、彼の音楽物語のなかでも一番大掛かりな代表作と言って間違いないと思います。大掛かりなのでなかなか演奏するのは大変ですが、今回はオリジナル編成での上演になります。
演奏会の企画と指揮は、関学マンドリンOBで、帝塚山学園ギターマンドリンクラブを指導してこられた金治耕造先生。「三コ」は金治先生から大栗裕に委嘱して帝塚山学園ギターマンドリンクラブのために書かれた作品ですし、シンフォニエッタ第1番は、1967年に関学マンドリンクラブ50周年の記念に作曲され、大栗裕がマンドリン音楽の新境地を開いた曲。マンドリンオーケストラのためのシンフォニエッタは、以後、第7番まで書き継がれることになります。
大栗裕のマンドリン音楽のエッセンスがつまったコンサートだと思います。
(大栗裕が関西学院の指導をするに至った経緯などを金治先生が整理してくださった文章もプログラムに出る予定で、資料的な価値もありそうです。)
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さらに、
ソプラノの小西潤子さん、バリトンの萩原次己さんは、既に2年前にピアノ伴奏のスペシャル・ヴァージョンの「ごん狐」を歌っていらっしゃいますし、萩原さんは来年2月の茨木での岩田達宗演出「赤い陣羽織」にも出演することになっています。
先日、練習を見学させていただいたのですが、金治先生の作り方は、言葉・台詞としてのリアリティ、物語・ドラマの展開を大事にする演奏で、ぐっと来る演奏になりそうでした。
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マンドリンオーケストラについては、今でも高校・大学でやっているところがあるので知っている人にはおおよそこんなもの、というイメージがあるでしょうし、そうじゃない人は「何それ」かもしれませんが、
少なくとも大栗裕のマンドリン音楽は、いわゆる「土俗的」な感触とハイカラで三和音をきれいに響かせる洋風の感覚が独特に混じり合っていて、トレモロの効果であったり、ギターのアルペジオが入るときのキラっと光る感じとか、なかなかよく考えられていて、とりわけ音楽物語は、マンドリンオーケストラが生きるように書いてあるように思います。
この感じは楽譜や録音だけでは十分に伝わらなくて、実際にマンドリンオーケストラの響きが会場にソワっと広がるライブ上演ではないと体験できないと思います。大栗裕は、長年マンドリンにつきあって、どう書けばいいか、見つけたんだと思います。そしてそれは、作曲家としてのとても大きな功績だと私は思っています。関学で当時実際にやっていた方々が関わる演奏を聴くと、こうやるんだ、という確信の強さがあって、大栗裕のやろうとしていたことが、今でも生々しく見える気がするんですよね。
(アマチュアの演奏を想定して、技術的にはあまり難しくなく、「気持ち」があれば確実に効果を発揮するように書かれているから、作曲者の死後30年経っても当時の音楽を「再生」できる、ということじゃないかと思います。ここまでの鮮度でかつての音楽を伝承できるのはマンドリンというシンプルで、それにもかかわらず必要な表現を作り出すことのできる楽器だからこそで、オーケストラや吹奏楽や合唱のように自由度の高い音楽では難しいと思う。大栗裕がどういう音楽家だったのか、ということを知るためには、マンドリンオーケストラのための音楽が特別に重要だと私は考えています。)
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最近、小沼純一さんのオーケストラ論が新書で出ました。
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「再入門」となっていますが、雅楽やガムラン、ジャズ・バンドや日本音楽集団や吹奏楽を含めた「集団の音楽」という視点でオーケストラを捉え直す内容になっており、オーケストラをよく知っているつもりの人にも是非呼んでいただきたい目配りの効いた本ですが、
フラットで驚異的に目配りの効く小沼さんですら、マンドリンオーケストラを主題的に取り上げてはいません。
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武井守成男爵が種を蒔き、明治大学マンドリン倶楽部から古賀政男が出て、戦後は服部正が慶應で放送局や芸能界とのコネを活かした豪華なキャストで「シンデレラ姫」や「人魚姫」などアンデルセン童話によるミュージカル・ファンタジーを書きました。
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武井守成のマンドリン・オーケストラに様々な音楽家が関わったことは日本の洋楽史でもしばしば言及されますし、服部正のミュージカル・ファンタジーは、「手古奈」など学校教育にオペラを導入しようという動き(これが日本オペラ協会の出発点)とも緩やかにリンクしていたようです。
そして金治先生が情報を整理してくださったおかげで、大栗裕の音楽物語がかなり具体的に服部正のミュージカル・ファンタジーを意識して書かれたものだということがわかりました。(金治先生の文章「大栗裕とマンドリン」は、季刊『奏でる!マンドリン』Vol.15(2012夏号)に掲載されています。)
日本オペラ協会は、のちに武智鉄二が関わるようになってから大栗裕などかつての関西歌劇団時代の創作オペラを取り上げますが、実は、団体の原点になった教育オペラの服部正と大栗裕には昭和30年代に接点があったし、両者を結びつける場はマンドリンオーケストラのための音楽物語/ミュージカル・ファンタジーだった、ということになるらしいんです。
マンドリンオーケストラは、さほど華々しくはないけれども、アマチュア中心で営まれてきた無視できない日本の洋楽の水脈のひとつだと思いますし、合唱とも吹奏楽とも違うところで、(小沼純一さんも把握していないかもしれないところで)この水脈は戦後も生きていたと見たほうがよさそうなんですよね。
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そんな思いも含めて、11/10の「ごん狐」、お薦めです。