「あなたは考えている。でもあなたの言っていることでは足りないんだ。」(吉田秀和)

[追記:選挙答え合わせ、あり]

私は政治思想史の研究者という看板を出しているけれど、その一方でクラシック音楽の評論家もやっている。そちらの畑の人は私のこの種の書き物にはあんまり気付いてくれないものだ。が、吉田秀和さんは例外で、こちらからお送りしているわけではないのに、なぜかいろいろ読んでくださっていた。こう言われた。「あなたは考えている。でもあなたの言っていることでは足りないんだ。」
足りないことをこの先、少しでも考えられればと思う。(「あとがき」218頁)

国の死に方 (新潮新書)

国の死に方 (新潮新書)

出たばかりの本の締めの言葉を引用するのは不作法かもしれませんが、選挙の日に間に合ったほうがいいんじゃないかと思いました。

たぶん、選挙というのは、紙にいくつかの文字を記入するという「簡単な行動」で、「考える」だけでは足りないことの先に進もうとするしくみとして考案されたのだろうと思います。

沈思黙考という自力の難行で「さとり」を得るのも大切ですが、他力の易行、ひとつの思いを別のものへ転化・転生させる「廻向」(えこう)というメニューも世の中にはあるのだということで。

「さとり」と「廻向」―大乗仏教の成立 (講談社現代新書 (711))

「さとり」と「廻向」―大乗仏教の成立 (講談社現代新書 (711))

実体としての梶山先生は最後に創価学会の人になってしまったが、それはそれ、これはこれ。

[追記:選挙答え合わせ]

憲法改正とか排外主義とかは、最近の報道だと政治的に正しい言い換えで「無党派層」と呼ぶことになっている浮動票のボーナスポイントをゲットして、プロの政治家さんが勝てるときにしっかり勝ち切るためのリップサービス。

民主党政権が末期になって次々通しちゃった法案とかが酷すぎて自滅したので、次はどこか、となったときに、維新ではいくらなんでもアカンやろうという風に考えると、自公で他と組まなくても大丈夫な議席を確保する、というのは、とりあえず悪くない避難先なのかもしれませんね。

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ところで、

関西のテレビは、伝統的に地元製作の選挙報道番組を優先することになっているようで、古館さんとか木村さんとかの顔を切れ切れにしか見ることができないわけですが、

東京というか全国の情勢としては「自民圧勝」となっているときに、

大阪の、(市内はそうでもないけれど[追記]……というわけでもないでしょうか)周辺の郊外地域で、軒並み、維新な方々が得票1位2位を争っている様子が延々報じられて[追記:結果的には候補を立てたところでほとんど当選してしまって]、

なんだか、わたしらは、東京を首都とするのとは別の国に住んでいるかのようですね。^^;;

漠然とした印象論ですけれど、こういった「浮動票」な方々は、おそらくあまり地元とは縁がなく大阪市内などへ働きに来られる、いわゆる中間層であることが多いんじゃないかと思うのですが、

だとしたら、地元で義務と責任をコツコツ果たすことをできるところからはじめたほうがいいんじゃないですかねえ。

いきなり東京とかへ代表を送り出しても、話がデカすぎて、右往左往するだけで終わっちゃうと思います。

これからの何年になるかわからない任期は、そのことを確認する「お勉強」の期間ということになるのでしょうか。

大阪の選挙行動は、タレント議員さんがものすごい得票数を集めちゃっていた一昔前と、実は構造としてはあまり変わっていない、ということなのかもしれませんね。話題・注目を集めるけれども政治力としてはそれほどではない人のところへ票を集めておくのが、一種のガス抜きになって、この規模の都市をのらりくらりと維持していくにはちょうど良い、と。

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だいたい、最近相次いでリニューアルされた梅田のJR大阪駅も阪急梅田の百貨店のあたりも、毎日遠方から通勤して来られる皆様は、効率よく乗り換えを実現するために隅っこのほうの地下道(昔からほとんど変わっていない)や陸橋へ誘導されて、外から見えなくなるように設計されています。

ピカピカで広々としたスペースは、皆様の働いたお金を優雅に消費するご家族・お知り合いの方々のためにあるわけです。

「国政」からお金を引っ張ってきても、そっち側が立派になるだけで、あまり皆様ご自身の日々の仕事を快適に「改革」することに使われる見込みはないんじゃないかと思います。

大阪のいわゆる「活性化」というのは、皆様に費やすコストを極限まで効率化して、浮いた部分で上屋をゴージャスにすることで数字上の豊かさを達成しようとするヴィジョンなわけですから、そういうのを支持するというのは、なんだか、究極の自己犠牲の哀しいお話だと思うんですよね……。

仕事や陰謀はそこそこにして、趣味を持ちましょうよ。