1991/92年にドイツへ行かせてもらったときに、『地球の歩き方』世代ですからカルチャーショックとか、そういうことはなく、基本的には、ちょっと遠い街の一人暮らしで実際的にあれこれやらなければならないことをこなすうちに一年が過ぎた感じでしたが、
それまでニッポンの団地の蛍光灯の下でずっと暮らしていたせいか、学生寮でも語学学校のホストファミリーの民家でも公共施設でも、光とのつきあい方が違うんだなあ、ということは思った。
日本のおしゃれ系の店などで見かけるようになっていた間接照明の演出の出所はここか、と納得していたような気がします。
- 作者: ヴォルフガング・シヴェルブシュ,小川さくえ
- 出版社/メーカー: 法政大学出版局
- 発売日: 2011/12/09
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- 作者: ヴォルフガングシヴェルブシュ,Wolfgang Schivelbusch,小川さくえ
- 出版社/メーカー: 法政大学出版局
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シヴェルブシュの二部作のうち、電気照明を扱った20世紀編はちょうど1992年刊行ですが、そこでも最後に軽く言及されているように、当時ドイツでは随分とハロゲンライトが流行っていました。
日本へ戻ってくると、こちらでは、あまりそういうことはなかったですね。
で、あれから20年、ずっと使い続けられていた白熱電球(シヴェルブシュは、壁の崩壊以前の東欧で使い続けられていたとされる裸電球を「世界でいちばん物哀しいランプに照らされていた東欧」(243頁)と書く)は、気がつけば、ある日を境に、放送がアナログ地上波からデジタル衛星放送に強制的に切り替わったの同じように、「省エネ」ということで発光ダイオードへ一斉に置き換わろうとしている。
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1983年に原書が出た『闇をひらく光』(原題 Lichtblicke の直訳は「光 (Licht) の眼差し (blicken)」という感じでしょうか)は、19世紀のサロンや劇場を論じた文献でよく引用されていましたし、日本でも『鉄道旅行の歴史』(1977年、邦訳1982年)に続いて1984年に邦訳が出ました。
あのころドイツ系の文化史本が次々紹介されて、フランス系のアナール派とともに、バブルの日本を19世紀の都市ブルジョワ文化になぞらえてうっとりしたい欲望を満たした。いわば「舶来の高尚なサブカル本」として読まれていたような気がします。
まさに「高尚な鉄オタ本」ですよね。これも最近、新装復刊されたみたい。鉄道旅行の歴史 〈新装版〉: 19世紀における空間と時間の工業化
- 作者: ヴォルフガング・シヴェルブシュ,加藤二郎
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(渡辺裕の初期の仕事、H. C. ヴォルブス『19世紀の音楽カリカチュア』邦訳(1984年)→『聴衆の誕生』(1989年)→『文化史のなかのマーラー』(1990年)も、こういう「高尚なサブカル本」路線に乗っていたのは間違いない。)
バブルが崩壊して、こういう「サブカル」路線だけでは大学教授として許してもらえなさそうな空気になったので、90年代は、放蕩を反省するかのように「近代の見直し」を言い、ゼロ年代には、大衆文化研究が勢いづいてきたので「つくられた説」とか新しい「国民」論に乗っかったふりをするようになったわけです。
- 作者: ハンス・クリストフ・ヴォルプス,渡辺裕
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書棚に並ぶその種の本を買っていたら切りがないのでシヴェルブシュの本はずっと未読のままになっていて、最近『闇をひらく光』が新装再刊されたのを知って、先日、梅田茶屋町のジュンク堂(シヴェルブシュ風に言えば、ガラスでとりこむ太陽光と室内照明を混ぜる建物だけれど、今はこういうのが普通になりましたね)へ買いに行ったのですが、
そうしたら、
照明の文化史二部作は、「人文・世界史」ではなくて、「インテリア・照明」の棚(そういうコーナーがあったのです)に並んでいました。
シヴェルブシュの電気照明史(『光と影のドラマトゥルギー』の原題 Licht Schein und Wahn のゆらめくような語感の訳しがたさは「あとがき」で簡潔に説明されています、「光 輝く仮象と心の惑い」みたいな感じでしょうか、「光」と「輝く」は「光輝く」と続けて読むこともできるけれど、「光/輝く仮象」と分けて読むこともできる状態になっている、ということで)は、20世紀前半の舞台照明(光の演出)が居住空間へ入ってきて、「日常生活を演出」するに至った、という見通しが縦糸になっていますが、ブレヒト劇の研究から出発した人の本が21世紀初頭東アジアの振興商業地域の巨大書店の「インテリア」コーナーに進出したのは、よくできた話だなあ、と思いました。
(本の中身のことは、もうちょっと考えがまとまってから書く、かもしれません。ひとまず。)