私がこれまでやってきたことの大半は、「学問」ではなく、「評論」だということになる。そして、事実、その通りだと思う。
昨日に引き続き ( イラストレーション ) - Le plaisir de la musique 音楽の歓び - Yahoo!ブログ
それはそうだと思いますが、そのうえで、作曲家教育における「対位法」の諸問題は、最終的な出力は「論文」でも「評論」でもいいので、よく調べてから、なおかつ赤裸々に書いていただきたいと思っております。(ちなみに「親和力」の柴田翔は今は独文学者だけど芥川賞作家で言語観はたぶん複雑だよ。)
それと関連するようなしないような話ですが、わたくしが学者の鑑だ、と思ってしまう神田千里先生について。
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神田先生は一向一揆について、書名だけだとどれがどうなっているのか見分けがつかない本を1990年代からたくさん書いていらっしゃいますが、
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専門家ではない者向けに書いた最初の頃の『信長と石山合戦』(1995)は、あくまで石山合戦の話がメインで、(1) 土一揆は本当に「民衆史観」で言う民衆(百姓)の支配者への抵抗だったのか、(2) 一向宗を日本では希有な「宗教戦争」の担い手と言い切っていいのか、(3) 織田信長は本当に宗教勢力という「中世」を根絶する近世の旗手だったのか、史料をよくよく調べてみると、色々具合が悪いんじゃないか、ということを、具体的な分、ちょっと地味に検証しているような印象を受けます。
でもこのあとの10年で「一向一揆」と呼ばれる現象全般、さらには「土一揆」全般に話題が広がって、
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そういう風に戦国時代の一揆全般を知っている目でキリシタンの反乱を洗い直した『島原の乱』(2005年)は、純粋に読み物としても面白いし、同時代の仏教の有りようを知っているから日本でのキリスト教の特殊性や土着化した部分がくっきりわかる、ということなんだろうなあ、と思います。
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で、2007年の『一向一揆と石山合戦』は、遂に出た!という感じに「つくられた説」が登場しまして、一向一揆が後世、徳川時代から近代にどのように語られてきたかを検証して、「ザ・一向一揆」は後世の神話であるらしい、ということが指摘されております。
「戦争の日本史」シリーズでもあり、宗教史、教団史というだけでなく、合戦としての土一揆を語る読み物にもなっている。
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「つくられた説」も、これだけの下支えがあったうえで言われると説得力がありますし、慎重・地道に積み重ねたものが像を結んだ感じに清々しいものなんですね。
(ホブズボウムの「伝統の発明」だって、きっとそういうことですよね。そういうのを研究の「出発点」で宣言すると、スゴロクでいきなり「上がり」に自分の駒を置いてしまうことになってしまう……。)
それにしても、「伝統の発明 invention of tradition」もしくは「発明された伝統 invented tradition」という言葉が一人歩きしている割に、ホブズボウム Hobsbawm のこれは、本が長らく品切れだったり、硬い本がいかめしく訳されていますし(訳書1991年刊)、しばしば並び称されるアンダーソンが華やかに売られ続けているのと好対照ですね。
- 作者: エリックホブズボウム,テレンスレンジャー,Eric Hobsbawm,Terence Ranger,前川啓治,梶原景昭
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濁点がどこに付くのか覚えにくい著者の名前で損をしているのではないだろうか。私は長い間「ボブの家(Bob's Home)」かと勘違いしていました。^^;;
「長い19世紀」と「短い20世紀」とか、可燃性の高い感じの巧妙なキャッチコピーと、硬質にじっくり話を進める本文のギャップが大きい気がします。「伝統の発明」を論集の冒頭でこんなに細かく概念規定しているとは知らなかった。
あと、この人の著書は邦訳書が高い……。The Age of Extremes: 1914-1991
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そして2010年の一向一揆と島原の乱の両方を視野に収めた『宗教で読む戦国時代』は、2つの光源から照らされて立体が浮かび上がるみたいに、天道といった戦国時代の一般的な宗教観に論が及んでいます。
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1990年代に石山合戦の本が出たときは40台で、「つくられた説」の2007年は58歳、『宗教で読む戦国時代』が61歳。
歴史学者がひとつのテーマを追いつめて、そこから視野を広げていくのは息の長い作業なんだなあ、と改めて思います。
(與那覇潤氏はどうして例の本で一向一揆を重要視していながら神田先生をスルーしたのだろう。)
参考:http://d.hatena.ne.jp/tsiraisi/20120228/p1
- 作者: 與那覇潤
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