「推す」人々

最近は、アイドルとかでもムラムラと「萌える」時代が終わって、「推す」ものであるらしい(イチオシのオシ、ですね)。これだ!と決めたら脇目も振らず、別の意見には耳を貸すことなく猛然と突き進む感じがあって、なんだかすごい。そこまでしないと、ハンパな気持ちじゃ生き残れないぞ、と怒号が飛び交う銀行ドラマの時代、ラッシュをかけるのは政治の世界だけじゃない、というか、政治を見物して覚えた手法を自分の身の回りで実践しよう、ということでもあるのでしょうか。

コンサートで猛然と鳴りやまぬ拍手が続いてスタンディング・オベーションが乱発されるのには、そういう背景があるのかもしれませんね。熱いような恐いような……。

実際にわかってきたのは、そういうやり方は「政治」(狭い意味の)においてもあんまし効率が良くなくて、見た目の派手さに隠れて、見えないところが停滞したりボロボロになることがわかってきつつあるはずで……、是々非々、とか、お互いが折り合うことのできる落としどころを見つける、とか、むしろ、そっちが大事な気がしたりするのですけれども……。

で、井上道義だったら、あんまり堅いこと言わずに普通に面白すぎる人ですから、大丈夫でしょう。大植英次に負けず劣らず、触り方、語り方が難しい人なのは重々承知してますが……、「変わった人」の変わり具合にもそれぞれ色々あるので、そのあたりをじっくり鑑賞させていただくというのでどうか。

「青ひげ公の城」は、全世界が泣いた、とか、そういうメガヒットを生み出すタイプの曲ではなくて、あの2人の関係は、ひたすら脇目もふらずに「推す」、というのとは間逆に相手をじっくり見て、相手のことを考えに考え抜いて、なおかつ、どちらも全くウソや駆け引きで行動しているわけではないのだけれども、2人の間にジワジワと化学反応が起きて、あれよあれよという間にああいう結末に至る不思議なお話ですしね。

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見直したら面白すぎて、台本を取り出して読み直したりしながら3回繰り返ししまった……。台本も音楽もよくできていて、これは半端な気持ちで「東洋のバルトーク」と言ってはいけませんね。これを書いたときにバルトークはまだ30歳。大栗裕の「赤い陣羽織」が37歳で、「夫婦善哉」が39歳。ただし「青ひげ」の改訂後の初演は1918年38歳のときで、バルトークが「ザ・バルトーク」として国際的に認知されるのは実は遅くて、これは「ザ・バルトーク」になる前の作品なので、光り輝くハ長調(ツァラツストラ風の)がクライマックスで鳴り響いたりもする。