大阪駅でオペラ【注意】この記事は広告の可能性があります

*配給の松竹様から試写会にお誘いいただいた男が感想を書いています。広告の可能性があるのでご注意下さい。

メトのライブ・ビューイングは大阪にも何年か前から来るようになっていますが、大阪市内で午前中や夜遅くだったりして、なかなか行けなかったのですが、今回、始めて大阪でもプレス向けの試写会をやる、とのことでお誘いいただきました。

どうやら配給の規模が大きくなって、シーズン中の出し物はほとんど全部出す感じになっているんじゃないでしょうか。先の予定を見ると、ゼッフィレッリ演出の「ボエーム」(まだ出続けているんですね)もライブ・ビューイングに出すようです。こうなると、自分の街に劇場があるようなものですから、それぞれのお好みで選べばいいんじゃないでしょうか。

「ルサルカ」や「イーゴリ公」から、ガランチャとカウフマンの「ウェルテル」とかフローレスの「チェネレントラ」までありますし、レヴァインも「コジ」と「ファルスタッフ」で復帰みたいだし。10公演色々あって、ほんとになんだか西洋の歌舞伎座ですね。

上映館も、「大阪ステーションシネマ」という見慣れない名前があって、調べたら大阪駅の北側の伊勢丹が入ってるビル(グランフロントより前からできてるやつ、ノースゲートビルと言うらしい)の11階に5月からオープンしたみたい。ここでAM9:30上演だったら、茨木からでも行けそうですね。

……という調子で感想を書くと、すごくまっとうに宣伝として機能してしまいそうなのですが、まあ実際、ライブビューイング自体8年目だそうで、かなりこなれたコンテンツになっているということなのだろうと思います。

3幕7場、すべて間で緞帳が下りて音楽が止まって大々的に転換がありますから贅沢をまったく止めていないわけで(1幕と3幕は大道具の入れ替えまではないけれど、2幕は1場の舞踏会から2場の決闘シーンで大転換になる)、昔からなのかそれ以上なのかにお金をかけて巨大な舞台を組んで、それをこうやって映画館への配給を含めて興行すればある程度回収できるのだとしたら、これはもう、我々が日頃見ているのとは別の、どこか他の星の巨人族の娯楽をのぞかせてもらっているような気になってしまいます。

舞台間際から歌手を仰ぎ見たり、カメラが横移動しながら少しずつ角度を変える浮遊感のある手法で客席を撮ったりするので(これ日本のテレビではあまりやらないですけど、アメリカのコンサート・ライブ映像ではよく見かけますよね、なんか、ドキドキする)、カメラがアメリカンだから、よけいに仰ぎ見る感じが強まるのかも、と思いました。

1幕冒頭の、人間があっちこっちで動いたり、モノをポイと投げたりするシーンは、カメラが動きを後追いする感じになって(前奏部分のオーケストラの撮り方もそうだった)、ちょっと落ち着かなかったですが、その後はほとんど違和感なし。ネトレプコ様の魅力すべて見せます、な感じになっておりました。

作中で一番酷い奴がタイトルロールで、レンスキーが浮かばれなくて、という話ですが、私は、手紙の場面もさることながら、あとで再会して、離ればなれのところからそれぞれが相手に視線を馳せつつ別の人と話している、広い空間を感じさせるシーンが好きなんですよね。ヴェルディとかだと、離れたところにいる人物のアンサンブルでも、一方が他方を見て、もう一方はひたすら見られている状態だったりするけど(リゴレットの宿屋の中と外の四重唱とか、椿姫のやけくそなアルフレードのポーカーを不安げに眺めるヴィオレッタとか、アイーダが気になって仕方がないラダメスの挙動不審にアムネリスが疑惑を深めるところとか)、でもここは、双方が離れたところで別のことをやっていながら視線を相手に向ける、その両方を客席から見ることになる。

19世紀も後半になって精巧で危うい場面を構成するようになったんだなあ、と思う。チャイコフスキーは学生時代から劇場狂いだったらしいですが、バレエとか、こういう風に空間を広く使う(のを見る)のが好きだったんでしょうね。本人はイジイジしているけれど、ほっとくと必ずそういう音楽を書いてしまいますし。

興味のある方は、映画館でどうぞ。11/2から。